九年前の祈り (講談社文庫)

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本棚登録 : 64
レビュー : 8
著者 :
mitsukiさん 2018年   読み終わった 

第152回芥川賞受賞作。

芥川賞というと、合う合わないがスパーンと訣れることが多いのだけど、この作品の重みは好き。
いわゆるムラ社会色の強い熊本の小さな集落に、カナダ人とのハーフである息子、希敏(ケビン)を連れて出戻ってきたさなえ。
彼女は同じ故郷に住む「みっちゃん姉」と呼ぶ、かつて共にカナダを旅した初老の女性に逢いに行こうと思い立つ。

ともすれば、ムラ社会のしがらみを強く意識させる母と、反する生き方を選んでしまうさなえのドロドロになりそうなのに、この「みっちゃん姉」の存在が作品世界の色そのものを変える。
まださなえが若い時分、集落の女性達が、ジャックという先達を伴ってカナダ旅行に行く。
旅の中でさなえは、年の離れたみっちゃん姉の中にある、明るさに潜んだ哀しみを見つける。

その時は声のかけようもない「感じ」を、巡り巡って自分の影の中に見出したとしたら。
一概に共感とは言えない複雑な重なりの中で、だからこそ、さなえは彼女を追い求めているように見えた。

他の話とも繋がりのある短編集。
どの話でも、一番逢いたい人には逢えないままに筋が進んでゆく。
逢おうと思い立ったその感情は、逢えるその瞬間までに、思い出を伴って濃いものに変化してゆく。

そうか。逢うことだけが大切なのではないのか。
そこに至る過程の中で、その人との距離や時間を相対化しながら、改めて自分を見つめる時間が生まれる。
その過程を、とても快く感じた。

レビュー投稿日
2018年1月21日
読了日
2018年1月21日
本棚登録日
2018年1月21日
4
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