文字渦

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本棚登録 : 478
レビュー : 46
著者 :
mitsukiさん 2018年   読み終わった 

偶然、この一ヶ月以内のことで、中島敦の「文字禍」が話題に上ったのでした。
人が記述する文字に、人が操られているのかもしれない、という皮肉を含みながら、「文字禍」の碩学は悲惨な末路を辿りますね。

でも、本当に文字が生きていたとしたら?
というテーマは思いつくとしても、円城塔が描く世界はその予想を遥かに飛躍してくれます(笑)
しかし、頭が疲れる!!
すらーっと読んでしまうと、まるで何のことかさっぱり分からず、再読しました……。
以下、引用多目なので、ご注意ください。

私たちが手書きの文字には何か力が籠もると思っているように、一つの国の歴史が文字として残り、またその存在が許されなかった文字は、時空を超えて無と帰すように。
性別や立場で用いる文字に区別があること。
紙がデータに扮した時に、文字もまた書く対象ではなくその文字を表すコードと化したこと。
無限大と無限小の世界にいながら、文字は人間規格のツールだと思い込んでいること。
などなど、思いつくだけでも、面白い欠片がたくさん潜んでいることが分かります。

「『俑を管理するのも文字を管理するのも同じことだ』と嬴は何かを払うように手を振る。『ただの符丁にすぎずとも、秩序に従うことが重要で、従うことではじめて意味が与えられることになる』」

表題作「文字渦」は兵馬俑の作り手を軸として、中国という国の推移、そして文字が存在することの意味が上手くストーリーに織り込まれていきます。

「一般に、固有名詞は微弱な光を放つといわれ、これは文字自体が光を放つ証拠とされると同時に、光は認知的なものであるという証拠ともされる。文章をざっと眺めて、固有名詞をみつける速度は、普通名詞をみつけるのに比べて有意に速い。」

かなだけで書かれた文章であっても、そうと読めることが多いですが(複数の可能性を示すことももちろんですが)、これってアルファベットでも同じなのでしょうか。thisisapen.

「一見、無特徴ともいえる楷書はしかし、それゆえに人間の秩序とは関係のない文字そのものの生々しさとでもいうものを感じさせる。人間のものではない秩序がそこに現れているようにも見えるのである。それは不思議と、十二年前、阿羅本に見せられた『ウトナピシュティムの書』を思い出させた。字形は全く異なるのに、みつめるうちに自分が何をみているのか、その背後にいるはずの書き手の筆の動きをこえて、文字がただの線の集まりでしかなくなってくるところが似ている。」

感動して筆先の震える自動筆記機「御法」ちゃんのくだりも、なかなか素敵です。
併せて、中島敦の「文字禍」にもお戻りくださいませ。なぜか、敬体でのレビューでした。

レビュー投稿日
2018年8月2日
読了日
2018年8月2日
本棚登録日
2018年8月2日
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