ふくわらい (朝日文庫)

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本棚登録 : 1869
レビュー : 209
著者 :
mitu310さん  未設定  読み終わった 

身分による差別の激しかった古代インドにおいて、釈迦はこのような言葉を残したという。

「私は人の心に見がたき『一本の矢』が刺さっているのを見た」

「一本の矢」とは、差異へのこだわり。

人間の中にある差別の心は、刺さった矢のように抜くことが難しい。

それを克服しない限り、幸福も平和もないのだ、と。


本作は、第1回河合隼雄物語賞受賞作。

文学賞は、優れた作品に授けられるもの。

「物語としてしか命を持ちえない作品」

「世界をバラバラにぶっ飛ばす風のような力を持った、稀有な物語」

との評価で、作品の方から、文学賞の性格や方向性を決定づけてしまった。



主人公 鳴木戸定(なるきど・さだ)は、紀行作家の父と病弱な母のもとに生まれた。

定を愛し抜いた母は若くしてなくなり、婆やの悦子が定の面倒を見た。

父は、世界中の「秘境」の様な場所へ定を連れて歩く。

その旅の途中、父は定の目の前でワニに食われて命を落としてしまう。

その後の定の取った行動で社会的なバッシングを受けてしまう。

そんな世間と隔絶するように友情や愛情を知らずに育った彼女は、編集者となった。

担当する一癖も二癖もある作家たち。

猪木に憧れて、闘魂三銃士と同期で、それでも地味ながらエッセイを書き続ける守口廃尊。

「一目惚れです」と定に言い寄る盲目の青年 武智次郎。

恋愛に失敗してばかりの後輩の美人編集者 小暮しずく。


現実世界で出会ったのならば、「変わっている」とひとくくりにされてしまいそうな面々。

だが、この作品では我が事のように共感しながら読み進めることが出来る。


「変わっていない」人など、この世の中に存在しない。

自分のことを大事にする。

相手のことを思いやる。

ほんの少しの強さと想像力。


「人のこころを支えるような物語を作り出した優れた文芸作品」との評価も、心の底から共感できる。

レビュー投稿日
2019年5月22日
読了日
2019年5月22日
本棚登録日
2019年5月22日
3
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