Audibleで聞く読書。

個性的な登場人物たちを語り分ける俳優・藤木直人に魅了されながら。

亨の妻・久美子がでていった。

間宮中尉から再び手紙が届く。

亨は家の近くの井戸に潜っていった。

昼間の井戸。
久美子との出会いを思い出す。
越えられない見えない壁のような感覚がよみがえる。

夜の井戸。
久美子との新婚生活を思い出す。

そして、苦い体験も思い起こされる。

亨は、学生時代のガールフレンドを妊娠・堕胎させていた。

結婚後に、久美子とは避妊をしていた。
だが思いもかけず妊娠をしていた。

久美子は一人で堕胎をした。
亨はそれを出張先の札幌で知った。

その札幌で入った二軒目のバーで、ロウソクのパフォーマンスをする男に出会う。
この男の存在は店員も知らなかった。

閉じ込められた井戸に、加納クレタがやってきた。
彼女にも予知能力のようなものがある。
ノモンハンでの中尉の話と重なる。

間宮中尉との、手紙のやり取り。
井戸への思い。
失われた人生の意味を知りたい、と中尉は語った。

読みながら、聞きながら、自分の気づかなかったもの、見ないようにしていたものと向き合う感じがしてくる。

これこそ小説の大きな効能だ。

もう一つの1984年の物語は続いていく。

2024年1月30日

読書状況 読み終わった [2024年1月30日]

Audibleで聞く読書。

主人公の岡田亨は、法律事務所を退職し、妻の久美子と世田谷の一軒家で暮らしている。

この家は、親戚の好意で安く借りることができている。

単調な日々の中で、摩訶不思議な出会いが続く。

素性の知れない女からの奇妙な電話。

加納マルタ・クレタ姉妹との出会い。

妻の悲しい生い立ち。

彼女の兄・綿谷ノボルを通じた、作者の現代の社会への洞察。

そして、かつて良く夫婦で訪ねた霊媒師の本田さんの死。

その本田さんから、亨あてに形見が残されたとの連絡が入る。

電話の主は、戦時中に彼とノモンハンで日本軍の一員だった間宮という人物だった。

巧みな描写と、老若男女、そして時代を越えた多くの人物を語り分ける朗読の藤木直人の技量にも魅了される。

しかし、それを上回るほどに聞き続けることが困難な描写が続く。

戦争とは、人間を、過去・現在・未来へと苦しめ続ける悪魔の所業なのだと、刻み付けられる。

戦争ほど、残酷なものはない。
戦争ほど、悲惨なものはない。

だが、その戦争は今でも続いている。

その戦争に抗う力も、人間の中に宿っているはずだ。

2024年1月29日

読書状況 読み終わった [2024年1月29日]

先日、近所のゴミ拾いに参加した。
ゴミ拾いのボランティア定期的している彼らと、住み慣れた町を、ビニール袋とトングを持って歩いた。

あっという間に、ビニールがいっぱいになった。

彼らは「スポGOMI」に正式に参加。日本大会にもエントリーしている。

こんなにも、地域はゴミにあふれていた。

これをきっかけに、ボランティアの時以外でも、道端に捨てられている空き缶やペットボトルを可能な限り、リサイクルに回す習慣ができた。

そして、以前から関心のあったこの本を手に取った。

著者は、漫才師として活躍もしたが、厳しい時期がやってくる。

そして、ゴミ清掃員として働き始めた。

灼熱の猛暑の中も。
大雪の日も。

ゴミ清掃員は、最前線で走り続ける。

8年間の実体験を、軽妙にわかりやすく語りかける。

世界一のゴミ大国の日本。

SDGsや環境破壊といっても、本当に身近な問題なのだと痛感。

大田区のホームページで、改めてごみの捨て方を確認する。

ゴミを減らす。
無駄なものを買わない。
適切に分別する。

「大切なことは日常に埋もれていて、それが全て未来に繋がっているなんて、何遍も何遍も聞いていたので聞き飽きていました。本当でした」(「電子版あとがき」より)

「わかる」ことも大切だが、「かわる」ことはもっと大切だと教わった。

2023年11月7日

読書状況 読み終わった [2023年11月7日]

1972年の新日本プロレス、全日本プロレス旗揚げから、昭和の終焉となる1988年までの16年間。

ゴールデンタイムのテレビ中継に日本中が熱狂した。

「燃える闘魂」アントニオ猪木。

「東洋の巨人」ジャイアント馬場。

日本プロレスの創始者・力道山にスカウトされた二人は、それぞれの団体を率いながら、熾烈な闘いを繰り広げていった。

この16年間、未だに語り継がれる多くのドラマがあった。

逝去直前の猪木へのインタビューで本書はスタートする。

一つ一つの出来事を丹念に探りながら、当時は知り得なかったエピソードも交えて、歴史をひもといていく。

16年間の旅路の終わりは、テリー・ファンクと天龍源一郎の対談で締めくくられる。

私自身、幼稚園から大学入学までの最も多感な時期に大きな影響を受けたことばかりだ。

「夢なんていうのはそんなに簡単に叶うものじゃないし、追い掛けて追い掛けて、やっと追い付いたかなと思うと、蜃気楼のようにまた遠くに消えてしまう。だから俺があと何年生きるのか知らないけど、最後まで夢を追い続けることで少しでもみなさんのためになればと思っていますよ」(アントニオ猪木)

「70年代後半から80年代前半、オールジャパン(全日本プロレス)のあの10年間のブロックは、グローバル的にナンバーワンのカンパニーだった。ニュージャパン(新日本プロレス)と比較するだけじゃなく、全世界で比較しても、ナンバーワンはビンス・マクマホンJr.のところなんかじゃなく、オールジャパンだったね」(テリー・ファンク)

「俺がプロレスに入る気持ちを固めたのは、ジャンボ(鶴田)とテリーさんのNWA世界戦を観たのがきっかけだからね。1975年だったけど、あの試合を観て『プロレスっていいな』って思ったんだよ」
「そこにはプロレスが、スポーツだとか、lショーだとか、どうたらこうたらってのはないんですよ。観ていて本当に楽しかった。だから、あれが俺のプロレスの原点だと思う」(天龍源一郎)

「プロレスとはゴールのないマラソン」とは武藤敬司の言葉だが、見続ける我々もゴールのないマラソンを走り続けていく。

闘魂も王道も、永遠に輝き続けていく。

2023年11月3日

読書状況 読み終わった [2023年11月3日]

「Z世代が起こす優しい革命に、私も参加したい」

新聞広告に掲載されていた、経済思想家の斎藤幸平氏の推薦文を見て購入した。

Z世代とは、1990年代後半から2010年頃までに生まれた世代。
デジタルネイティブで、社会的不平等、人種差別、ジェンダー、環境問題に対して関心が高く、変革への意識が強いとされる。

戦争。
パンデミック。
地球沸騰化。

バラ色の未来だったはずの21世紀は、先行きの見えない混沌の中にある。

この世界を作ったのは、今地球にいる我々なのだ。

この世界をどうにかしたいと強く願っているZ世代について、当事者の強い実感を持って書かれている。

アメリカではメンタルヘルスがZ世代に甚大な影響を及ぼし、非常に重要なテーマとして取り扱われているのだという。

10年ほど前に、心の病と闘っていたころ、カウンセラーに言われたことを思い出した。

「鬱は、必ず治る病気です」

「病気になる前の自分には戻れないが、新しい自分になれる」

「この病気にかかったということは、あなたは時代の先駆者。後から続く後輩たちの道を切り開いていることになるんですよ」

メンタルヘルスについて率先して学び、セルフケアを大事にする。

自分を大切にし、相手を尊重する。

推し。
SNS。
信仰。
ライブ体験。
「インスタ映え」より「自分ウケ」。
買い物は投票。

人生の本質を見つめ、より自分らしく生きたいと願う強い心。

人間として最も大事なことを優先事項としていることに、感銘を覚えた。

学び続け、何ができるか考え続けたい。

そして、できることを等身大で続けていきたいと強く思わされた、力強い一書。

2023年10月26日

読書状況 読み終わった [2023年10月26日]

村上春樹著「辺境・近境」の旅に同行したカメラマン松村映三による旅の写真集。

写真週刊誌のカメラマン、いわゆるパパラッチをしていたが、ある日その仕事の内容に耐えられなくなり、退職。

独立して、村上春樹の旅に何度も同行している。

村上が松村の腕を信頼してのことなのだそうだ。


「文章には文章のパーソナリティーがあり、写真には写真のパーソナリティーがある。それぞれに独自の視線があり、独自の文法がある。それにもかかわらず、それらがお互いにははじき合わず、あるいはまたもたれ合いもしないことを、僕としては嬉しく思う。
 もちろん相性というものはあるだろう。でもそこでは、映三君の鉈が切り出す薪のまっとうな不揃いさが、大きな効果を発揮しているのかもしれない。そういう気がする」(「写真家との旅」村上春樹によるまえがきより)

Audibleで聞いた村上春樹の世界。

写真になって追体験が出来る。

二人の感性が響き合う。

四半世紀以上前の旅行記に心を奪われる。

2023年10月17日

読書状況 読み終わった [2023年10月17日]

Audibleにて聞く読書。

2023年春。
日本中を熱狂の渦に巻き込んだWBC。

世界一の栄冠を勝ち取った侍ジャパン監督の著者が、2019年に北海道日本ハムファイターズの監督だった時に出版された。

国立大学からテスト生でヤクルトスワローズに入団。
29歳で引退後、様々な経歴を辿り、ファイターズ監督のオファーが来る。

「命がけで野球を愛してやってくれればいいのです」。

監督就任要請時に吉村ゼネラルマネージャーからこう言葉かけられて、彼は腹をくくった。

徹底して読書し、学び抜く中で、あることに気が付く。

成功している人たちは古典にあたっていた。

その日に感じたことを、書き残し、読書から得た言葉を書き写していく。

先人たちの言葉が、血肉化され、勇気と力がみなぎってきくるのだという。

この年には、著者の母校が夏の西東京大会決勝戦まで進んでいた。
そして、甲子園まであと一歩のところで敗れていた。

「僕が人生で一番泣いた日は、高校3年生の夏。エースで臨んだ西東京大会の4回戦で敗れた時です」

だからこそ、後輩たちに送りたい言葉があるのだという。

「君子終日乾乾(けんけん)し、夕べに惕若(てきじゃく)たり。厲(あや)うけれども咎(とが)なし」(易経)

君子のように徳の高い人は、一日中一生懸命に働いて、一日が終わる毎に頭を垂れてその日悪かったことを反省する。危ういけど、問題は無い。

徳の高い、高くなるような人は、一日手を抜かず励んで、さらに明日良くなるように反省をしている。

甲子園があと一歩に届くところまで戦い抜いた経験は、必ず人生を切り開く力になるのだと。

「批判する側でなく批判される側であれ」
(倉本聰)

「聞き手の心に届く言葉を持つには本を読まなければならない。読むだけでなく書くことで心に入る」(吉田松陰)

行き詰ったとき。
辛くなったとき。
悩みぬいたとき。

何度でも、何度でも、読み返したい、聞き返したい、珠玉の一冊。

2023年8月15日

読書状況 読み終わった [2023年8月15日]

1Q84の世界の旅も最終章に。

牛河は、弁護士会を除名になった過去などを振り返る。
そして、張り込みのなかで、ふかえりを発見する。

レンズを通して、牛河はふかえりに強く見つめられていると感じた。
一直線に貫かれるような視線で。
そして、初めて強い孤独を感じた。
中央林間のかつての家や娘たちのことを思った。

タマルは、牛河が屋敷の周りで情報を掴んでいることを青豆に告げた。

小松は監禁されていた時のことを天吾に語った。

リーダー夫妻の死。
二人組が持ちかけた取引。

牛河はふかえりと、ファインダー越しに魂の交流を感じていた。

牛河は天吾を尾行する。
麦頭から公園に移動する天吾。
天吾は滑り台に登っていた。

牛河は、2つの月を見た。
天吾も、この2つの月を見るために、この公園の滑り台に来たのだと直感した。
そして、牛河はこの光景に既視感を感じていた。
それは空気さなぎだった。

青豆は、滑り台にいる天吾をみつけたと思ったが、違った。
それは牛河だった。

牛河を追った青豆は、天吾のアパートの302号室の郵便ボックスにたどり着く。
そして、玄関の前に立つ。

運命と運命が交錯する摩訶不思議な世界。

ありえないと思えるストーリーは、我が事のように胸に迫ってくる。
そして、心の底に何かを残していく。

2023年8月10日

読書状況 読み終わった [2023年8月10日]

Audibleで聞く読書。

BOOK3からは牛河の章が加わる。

牛河は、青豆とあゆみの関係に迫っていた。

青豆は死ぬのをやめた。天吾に会えるのならと。そして、高速道路上でタクシーに戻った。
何が起こるか見届けよう。死ぬのはその後でいい。

高円寺にい続けたいと願う青豆に、年末までとタマルは告げる。

牛河は、老婦人の情報にたどり着く。
彼女の娘の死の情報にもたどり着く。

青豆にとって、個室での潜伏生活は全く苦痛ではなかった。

少女時代に比べれば何でもなかった。

プルーストの失われた時を求めてを20ページ精読し、寝る前に天吾が書いた空気さなぎを読んだ。
天吾を感じるため。

1Q84の世界を生き抜くために。

環を思い、あゆみを思った。

そして天吾に会いたいと強く思った。

NHKの集金人がやってくる。
その言葉は、青豆を不快にさせた。

そして、青豆はさらに深く天吾に会いたいと思った。

天吾は、父の療養所のそばでの生活が続いていた。

空気さなぎに再び会いたかった。
そこにいた青豆に会いたかった。

牛河は青豆と天吾が小学校の同級生であること突き止める。

常識ではありえない出来事を、極めてリアルに描き出していく。

摩訶不思議な1Q84の世界も、クライマックスへ向かう。

2023年7月26日

読書状況 読み終わった [2023年7月26日]

40年ほど前、中学生の頃、はじめて星新一のショートショートと出会った。

抜群に面白かった。
世界に引き込まれた。

広大無辺な読書という名の大海原に導かれた。

その面白さを同級生に語った。
彼も星新一の世界にはまった。

彼と星新一の世界を語り合うのが本当に楽しかった。

それ以来、約40年ぶりに踏み入れたショートショートの世界。

抜群の面白さだった。

「最後のオチがスパッと決まる。
 それが50パターンあるわけです。
 小説の面白さが全部詰まっている本」
(メイプル超合金 カズレーザーの推薦文)


「短い小説という型式のなかに、私は運命的にひきずりこまれた。あるいは私の方から進んでふみ込んだ。はたしてどちらなのか私にもわからないし、おそらく一生わからないことかもしれない」(「あとがき」より)

40年前の中学生を魅了したショートショートの世界。

今読んでも、圧倒的に面白かった。

そして、40年後に読んでも、きっとその魅力は輝き続けるはずだ。

2023年7月16日

読書状況 読み終わった [2023年7月16日]

Audibleで聞く読書。

散歩をしながら、家事をしながら、30年以上も前の旅行記を体感した。

7つの旅の記録が綴られている。

・ニューヨークの作家たちの住む町。

・無人島・からす島の滞在記。

・メキシコ大旅行。

・讃岐うどんを食べ続ける旅。

・ノモンハンの戦地後を巡る。

・アメリカ大陸を横断しよう。

・阪神淡路大震災から2年後に歩いた神戸。


計画通りにいかないのが旅。

映画に出てこない、パッとしない現実。

下痢と嘔吐。

共同体の夢。

「隠し撮りに飽きた」松村カメラマンの流儀。

旅の途中で、恐怖の正体は自分自身だったのではないかと思い当たる。

神戸を歩きながら、大震災と地下鉄サリン事件に思いを馳せる。

「アンダーグラウンド」を書いたのは、社会の足元に潜む暴力性を書きたかったからだと。
あえて加害者でなく被害者をインタビューの相手に選んだのだと。

旅先では、メモは記録程度にしか取らない。

しっかり目に心に焼き付ける。
そしてじっくり自分の中で寝かせた後に、文章にする。

誰でもどこでも旅行に行ける時代に、旅行記を出す意味。

自分の中にまだ辺境があると信じることこそ旅行の意義の一つだと。

2023年7月8日

読書状況 読み終わった [2023年7月8日]

本には出会いというものがある。
読みたくても手に取らなかった本に、些細なきっかけで出会えることがある。

大田区民ホールアプリコで行われる「本と音楽の素敵な出会い」のポスターを図書館で見た。

「マチネの終わりに」をテーマに、作者の平野啓一郎とギタリストの大萩康司のイベントが開かれるという。

早速チケットを申し込み、少し早い夏季休暇を取得。

そしてその予習として、AmazonAudibleで聞く読書。
YouTubeで楽曲を聞いた。

ギタリストの蒔野聡史は、通信社のジャーナリストの小峰洋子と恋に落ちる。

だが、洋子には婚約者がいた。

子どもの頃から天才の名をほしいままにしてきた蒔野。

映画監督イェルコ・ソリッチと長崎出身の母の間に生まれた洋子。

洋子は、バグダッドでの取材中に爆弾テロに巻き込まれる。

この事故をきっかけに、二人の関係は、友情を越えたものになっていく。

文化と芸術。

戦争と平和。

資本主義とヒューマニズム。

多彩な登場人物を、ナレーターの声優 羽飼まりが語り分けて、物語を彩っていく。

文化を創るのも人間。
戦争を起こすのも人間。

人生の目的とは。
人間の幸福とは。

聡史と洋子と、二人の大切な人々が、運命に翻弄されながらも、それに抗いながら生きていく。 

幾重にも壮大なテーマが綴られる大作。

『人新世の「資本論」』で新書大賞2021を受賞した著者の、毎日新聞での連載をまとめた一書。

1万部売れればベストセラーと言われるなか、50万部以上を売り上げている。

多くの人が、彼の論考に注目している。

なぜか。
みんな、このままでいいなんて思っていないからだ。

戦争。
紛争。
パンデミック。
気候変動。
格差拡大。

なんとかしたいと思っているからだ。

著者はコロナ禍の真っ最中に、現場に足を運んでいく。

外出すら出来ないときは、家庭でできることに取り組んでいった。


知恵は現場にあり
自身をアップデートし続け、
学び続ける人は謙虚だ。

批判するだけでなく、懸命に、今、これからできることを探していく。

涙を流しながら、泥まみれになって。

温かさ。
ぬくもり。
知ろうとする努力。
学び続け、それを捨て続ける勇気。

「事を共にする」共事者として

「ないものねだり」ではなく「あるものさがし」をしよう。

「シンクグローバリー アクトローカリー」(アメリカの最近学者ルネ・デュポス)との言葉を思い出す。

無力感に陥る前に、今できることをやっていこう。

心の深いところで、静かに、そして強く決めた。


<本書から>

原発事故から10年たっても、近代化の呪いの前に停滞を続ける日本にあって必要なのは、思考の枠組みを変えることであり、それが思想の役割だと信じている。
無論、それは机上だけでは生まれない。現場に行き、埋もれた伝統や文化を掘り起こし、新しい価値として提示する作業の重要性は増している。
(P186 福島・いわきで自分を見つめる 「共事者」として)

もちろん、私やあなたの苦しみは、アイヌの人たちと同程度の苦しみや葛藤ではないかもしれない。
けれども「自分の苦しみは大したことない」、「もっと辛い人がいる」とみんなが我慢したせいで、日本は「沈黙する社会」になってしまったと石原さんは言う。
だとすれば、自分を大切にするために、自らの感情に言葉を与えることは、この誰もが「わきまえている」社会において、他者と連帯するための一歩なのである。
(P194 特別回 アイヌの今 感情に言葉を)

この「想像力欠乏症」を、佐藤千矢子は「オッサン」の病理として批判している。
 「男性優位がデフォルト(あらかじめ設定された標準の状態)の社会で、そうした社会に対する現状維持を意識的にも無意識のうちにも望むあまりに、想像力欠乏症に陥っている。そんな状態や人たちを私は『オッサン』と呼びたい」。

耳が痛い。今のシステムが行き詰まっているとすれば、その解決策は特権集団以外の場所に見出す必要があるということだ。
(P209 学び、変わる 未来のために あとがきに代えて)

だから、一つの問題に固執し、他の問題や自分の加害性に目を瞑るなら、それは共事者という視点からは不十分なものである。
共事者は、むしろさまざまな問題とのインターセクショナリティ(交差性)を見出し、さまざまな違いや矛盾を超えて、社会変革への大きな力として結集するための実践的態度なのだ。
(P217 学び、変わる 未来のために あとがきに代えて)

2023年7月1日

読書状況 読み終わった [2023年7月1日]

Audibleで聞く読書。

それぞれに進んで交わることがないと思われた青豆と天吾の世界に、少しずつ変化がもたらされる。

すべてをわかった上で「リーダー」は青豆を迎え入れた。

天吾のことも青豆に告げた。

だが、彼には自身のことは見えていなかった。

人智を超えたかのような能力で、教団を設立し運営してきた。

だが、自身の運命を克服することはできなかった。


ふかえりも、様々なことをわかった上で天吾を求めた。

天吾は、10歳の少年に戻って少女の青豆に出会う。

そして、青豆を探し出さなければならないと決意する。


リーダーの望みを聞き受ける形で、「仕事」を果たした青豆。
だが、正しいことをしたのだと言い聞かせても、とうてい納得などできなかった。

嵐があった。リトルピープルがそれをもたらしたのだという。
集中豪雨で銀座線と丸ノ内線のホームに水が溢れた。

仕事を果たした青豆は高円寺のセーフハウスに。
自動拳銃とともにある生活になっだ。

常に死と隣り合わせになった。

タマルは青豆に、少年時代の思い出を語る。
そして、できる限りあんたを守ると言った。

高円寺の児童公園で天吾は2つの月をみた。
月は寡黙だった。だが孤独ではなかった。

青豆はセーフハウスで空気さなぎを読み始めた。

小説を通して天吾と再会していた。

空気さなぎについて、読者も青豆の視点を通して初めて知る。

そして青豆は、高円寺の公園で滑り台に座る天吾を見つけた。

天吾は、父がもう長くないことを医師からの電話で知る。
療養所に向かい、死にゆくことを決めた父と向かい合う。

そして、初めて空気さなぎに出会う。

運命と運命が交錯する1Q84の世界。

人間は運命を、宿命を乗り越えることが出来るのか。

幸せになれるのだろうか。

大きなテーマを根底に抱えながら、物語は続いていく。

2023年6月17日

読書状況 読み終わった [2023年6月17日]

Audibleで聞く読書。

10年ぶりに足を踏み入れた「1Q84」の世界。

鮮明に覚えていること。
初めてのことのように聞こえること。
記憶違いをしているようなこと。

自分自身の変化もあって、より深く受け止め、考えられる場面もたくさんあった。

物語は風雲急を告げていく。

青豆が通う老婦人のセーフハウスの番犬メスのドイツシェパードが殺された。破壊されるように。

年上のガールフレンドに、天吾は月が2つ出る世界の小説の話をする。

彼は小学校の同級生青豆のことを思い描きながら、小説を書き始める。

青豆にとっても、大きな試練が訪れる。

大切な友人、あゆみの死。

かつて環を失ったとき以来、彼女は泣き続けた。

警察官と殺人者。
それは、限定された友情だった。

だが、青豆にとってかけがえのないものだった。

天吾は、認知症で施設に入所している父に会いに行く。

自身のルーツを確かめるために。
父を憎むことを辞めるために。

人を愛することが出来ないことに疲れたからだ。

小説とは、人々が心の奥底で持つ言葉に出来ない何かを形にすること。

読者こそが正解をそれぞれ持っているのだ。

2023年6月10日

読書状況 読み終わった [2023年6月10日]

Audibleで聞く読書。

10年ぶりに足を踏み入れた「1Q84」の世界は、新たな発見の連続だった。

一回読んだはずだが、忘れてしまったこと。

なんとなく覚えてはいたが、改めて気がついたこと。

杏が朗読する青豆の世界。

柄本時生が朗読する天吾の世界。

交わるはずのない二人の世界が少しづつ近づいていく。

幼き時に家族と別れる決断をした青豆は、必要最低限の人間関係の中で生きてきた。

だが、数少ない大切な人と悲しい別れを経験しなければならなかった。
そのことがきっかけに、もう一つの仕事の世界に足を踏み入れることになる。

予備校で数学の教師をしている天吾にも、幼少期の辛い体験があった。
数学の世界にのめり込むこと。
結論のない文学の森に入り込むことで、これまでバランスを保って生きてきた。

二人はそれぞれの生きる現実で、抗いがたい大きな出来事に巻き込まれていく。

優れた文学作品は、それを読むこと自体が人生の追体験になる。

世界を魅了し続ける村上春樹の世界に浸る幸せを感じる。

2023年5月28日

読書状況 読み終わった [2023年5月28日]

「計算士」を生業とする「私」が主人公の「ハードボイルド・ワンダーランド」。

「夢読み」が仕事の「僕」の語りで進む「世界の終り」。

二つの無関係の思われる、摩訶不思議な物語。
物語は徐々にその世界観の全貌を明らかにしていく。

「計算士」の「私」は、彼の経験してきた奇妙な出来事の理由を、博士から教えられる。

ドイツの社会学者 マックス・ウエーバーは、「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」のなかで、資本主義の問題点を指摘していた。

資本主義が発展していくと「精神なき専門人」と「心情なき享楽人」が跋扈してくる。

「何のため」という目的観や倫理観を見失い、ただ新奇性だけを追い求めた科学者は「精神なき専門人」そのものだろう。

「私」は、それに巻き込まれたのだ。

自分の影と切り離された「僕」は、自分の生きてきた意味、これから生きていく価値を問い始める。

一見華やかに見える人々。

村上春樹の世界は、その登場人物一人ひとりの生命の奥の奥に迫っていく。

言葉に出来ない言葉で、表現し、読者に問いかけ続けていく。

華やかさの底にある虚無感。

だれかとつながっていたい寂しさ。

人生があと僅かだと知らされたのなら、自分は何をするのだろうか。

自分は一体何者なのだろうか。

答えの出ない問いを続けていく、村上春樹の世界を堪能した。

2023年5月10日

読書状況 読み終わった [2023年5月10日]

Amazon audible にて聞く読書。

「計算士」を生業とする男が主人公の「ハードボイルド・ワンダーランド」。

「夢読み」が仕事の男の語りで進む「世界の終り」。

二つの無関係の思われる、摩訶不思議なストーリーが交互に語られる。

1986年、著者が35歳の時に発表されたこの作品。

2009年から発刊された「1Q84」とも通じるような、時代の空気。

2017年に発刊された「騎士団長殺し」のような、現実とおとぎ話が交錯したような世界観。


二つの異なる物語。
個性豊かで、現実的かつ空想的な登場人物を、俳優の大森南朋が、淡々と語っていく。

氏は、若い時にこの作品を読みながら、最後まで読み通せなかった経験もあるという。

そんな人間臭さが加味されて、村上ワールドを見事に表現しきっている。

無色透明なのに、多彩な色合い。

淡々としているのに、激しく揺れ動く感情を描く。

ありえない世界に身を置きながら、一つひとつが我が事のように感じられるリアリティ。

世界を虜にし続ける、村上春樹の世界に、じっくり浸る幸せを感じる。

2023年4月11日

読書状況 読み終わった [2023年4月11日]

ベストセラーとなった「人新世の資本論」に続いて手に取ってみた。

難しいテーマを、分かりやすく。

語りかけるような穏やかな話し方でありながら、鋭い論考が繰り広げられる。

「あなたが、この入門書を手に取った理由はなんでしょうか。
 毎日が楽しくてしょうがない人が、この本を積極的に手に取る確率は低いはず。
 少なくとも漠然と、今の仕事や社会のあり方に生きづらさや虚無感を覚えたり、気候変動や円安のニュースを前にして、未来に不安を感じたりしている方が多いのではないでしょうか」

(「はじめに『資本論』と赤いインク」より)

「世界のいたるところで、これまでのやり方からの大胆な転換を求める声が高まっています」

「現状への不満や未来への恐怖が排外主義などの反動的欲望へと転化しないようにするためには、別のより魅力的な選択肢が存在することを、説得力ある形で示す必要があります。けれどもそれは容易なことではありません」

「だから、古典は面白い。今でも私たち自身の問題意識を映し出す鏡として、『資本論』は何度も違った視点から読み直す価値があるのです」

(「あとがき 革命の時代に」より)

誰もが、このままでいいなんて思っていない。
でも、現実の中で生きていくしかない。

知恵は現場にあり。

地球のいたるところで、その萌芽は芽生えつつある。

<本書から>
・「商品」に振り回される私たち
・なぜ過労死はなくならないのか
・イノベーションが「クソどうでもいい仕事」を生む
・緑の資本主義というおとぎ話
・グッバイ・レーニン!
・コミュニズムが不可能だなんて誰が言った?

2023年4月5日

読書状況 読み終わった [2023年4月5日]

「本書で私は、佐藤さんと大げさでなく『生き延びるための対話』をしてきたという実感がある」(斎藤環氏の「まえがき」より)

「こういう状況(末期腎不全で十分な作家活動はあと数年しか出来ないことが明らか)で、斎藤環氏は、私が心の底から会いたいと思う人だ。それにはいくつかの理由がある。
 第一に、斎藤氏は対話(ダイアローグ)ができる人だからだ」(佐藤優氏の「あとがき」より)

オープンダイアローグの先駆者と、知の巨人が、縦横無尽に語り合った。

世界を襲った新型コロナウィルス。

誰もが予測し得なかった前代未聞の事態が続く中、対話は続けられた。

この時代を生き抜くためには、どのようにすればいいのか。

対話の中から、たくさんのヒントが紡ぎ出されていく。

他人なれども語らいぬれば、命に替わるぞかし。

英知の言葉が、闇夜のような世界を照らす光となる。

<「生きるヒント」より>

○第1章「鬼滅の刃」ブームに見る現代日本人の心の闇

・「密な家族」は仲良くなるか、険悪になるかのどちらかに振れやすい。

・女性は男性よりも、「会わないこと」から受けるダメージが大きい。

・追い込まれないために、悩みや苦痛は口外すべし。ぜひ、役所などにも頼ろう。

・精神科と心療内科の違いを理解して、適切な治療を受けよう。医師は選ぶべし。

・ペットや趣味など「内向きの不要不急」を大切に。

○第2章 人はなぜ、人と会うのか

・①人に積極的に会いたい人、②一人でいたい人、③その中間ぐらい。自分はどれか、「あの人」はどれか、考えてみる。

・人に会うのに苦痛を感じるのは、そこに「暴力性」があるからだと理解する。しかし、その「暴力」には意味がある。

・人と会うことで不確実性は高まる。「偶然の事故」から新しい発見があったり、新たな展開が生み出されたりする。だから対面にはリモートにはない意義がある。

○第3章 危険な優生思想に蝕まれないために

・人間には心があることを再認識する。

・脳科学を過信しない。

・「AI時代」を生き抜く鍵は「読解力」にあると心得よ。

・人間の生に「いい」も「悪い」もない。多様性に対する正しい理解は、これからの時代を生き抜く自分のためでもある。

○第4章「同調圧力」と日本人

・スペイン風邪は記憶されなかった。パンデミックは適切に記憶する努力が必要。記憶するためには「終息記念日」のような祭祀化が必要。

・コロナ禍をめぐるマスコミの「炎上商法」を冷ややかに見ること。

○第5章 息苦しい「組織」「学校」から解放されるために

・自分の居場所が「学校だけ」「会社だけ」になると息苦しくなる。クラブ、教会、学習塾。意識的に別の居場所をつくっておくと、心はだいぶ楽になる。

・この機会にひきこもりの人の気持ちを理解しよう。外に出られなくて苦しんでいる人がいることを理解し、寛容になれれば、外に出られているあなた自身も楽になる。

・「逃げるときには逃げる」というのは、生き延びるための立派な知恵。心の中に、その自由を確保しておこう。

・ポストコロナには、人と会い、会話して、意図的にメンタルの修復に努めよう。

2023年3月26日

読書状況 読み終わった [2023年3月26日]

「根源的問題について率直な意見交換ができる富岡幸一郎氏という友人を持っていることを私はとても誇りにしています」(佐藤優氏の「まえがき」より)

「前著『<危機>の正体』(2019年10月刊)に引き続き、今ここに、再び佐藤優氏との対談集を出すことができるのは、筆者にとって大きなよろこびである」(富岡幸一郎氏の「『危機』からの再出発--後記に代えて」より)

二人の知の巨人が、縦横無尽に語り合った記録。

前作に続き、英知の対話が繰り広げられた。

近代150年の時代を彩った小説を題材に、過去・現在・未来を語り合う。

そこに共有するのは、強烈な問題意識。

課題を解決したい。

平和な世の中にしていきたい。

問題を見つけ出すこと。

その本質を見抜くこと。

そのために努力を続けていくこと。

二人の対話が、それを教えてくれる。

2023年3月25日

読書状況 読み終わった [2023年3月25日]

日本中が熱狂に包まれるWBC。

日米通算188勝・ダルビッシュ有。
若き三冠王・村上宗隆。
投げる哲学者・今永昇太。
青い目の侍・ラーズ・ヌートバー。

そして、世界の二刀流・大谷翔平。

その侍ジャパンの監督は、栗山英樹。

本書は、北海道日本ハムファイターズ監督時代の2017年に出版された。

長嶋茂雄と王貞治に憧れた少年時代。
小学校1年生の時、父が監督を務めるチームで野球をはじめた。

中学時代には、アメリカ代表のチームと親善試合をするまでになった。

高校時代は、4番でエース。
甲子園を目指したが、適わなかった。

一般受験で東京学芸大学へ入学。
活動費を稼ぐために、塾講師のアルバイトした。
教員免許も取得した。

だが、野球への夢を諦めきれなかった。

ある練習試合で、佐々木信也氏と出会う。

「キミなら、プロ野球でやっても面白いかもしれないね」

プロ野球ニュースの司会者で有名な氏の言葉と、高校時代の恩師のアドバイスを受け、プロテスト挑戦の道が開ける。

ドラフト外ながら、ヤクルトスワローズへの入団が決まった。

「夢がかなった、それは地獄のはじまりだった」

あまりのレベルの違いに、イップス(思いどうりのプレーができなくなる運動障害)に陥った。

当時の内藤博文二軍監督が、居残りで特訓をしてくれた。

「なあクリ、プロ野球ってのは競争社会だよな。一軍に上がらないと認められないよな。でも、オレはそんなことはどうでもいいんだよ。お前が人間としてどれだけ大きくなれるかどうかのほうが、オレにはよっぽど大事なんだ。だから、周りがどう思おうと関係ない。明日の練習で今日よりほんのちょっとでもうまくなっていてくれたら、オレはそれで満足なんだよ。他の選手と自分を比べるな」

そして、念願の一軍デビューを果たす。

やれることは何でもやった。
スイッチヒッターにも挑戦した。
そして、結果を出していった。

だが、試練が彼を襲う。

メニエール病。

原因不明の病と闘いながら、自身との葛藤を乗り越えながら、グラウンドを駆け抜けてった。

1試合4犠打のプロ野球タイ記録。
1989年にはゴールデングラブ賞を受賞。

小さな身体での全力プレーで、限界の先の先まで走り抜いた。

1990年のシーズン終了後に引退。

解説者、スポーツジャーナリスト、大学教授としても活躍した。

野球の素晴らしさを伝えていくために、学び続けた。

2011年オフに、北海道日本ハムファイターズの監督に就任。

本書では、2016年に日本一を達成するまでが記されている。

「人の心を揺さぶるためには、最終的には『熱さ』しかない。理論でもない。理屈でもない。この選手にはこうなってほしい、このチームにこうなってほしい、という精いっぱいの心の叫びでしか、人の心を動かすことはできません」

われ以外みなわが師 (吉川英治)。

学び続ける謙虚な心。
飽くなき好奇心。

生涯青年の心意気で戦い続ける「魂」に触れ、内奥から生命力が沸き上がってくる。

2023年3月18日

読書状況 読み終わった [2023年3月18日]

「ポルトガルのロカ岬はヨーロッパ最西端の地なのですが、そこに<ここに地終わり 海始まる>という碑文が刻まれていて、私はこの文章になぜか烈しく心を揺すられました。どうしてなのか、私にはよくわかりません」(「あとがき」より)


 結核病棟で18年の時を過ごした志穂子は、社会復帰を果たそうとしている。

 梶井克哉からの絵葉書がきっかけだったのだ。

「私、梶井さんの気まぐれだったにしても、あの絵葉書で元気が出たんです。それ、ただの元気じゃありませんもの。病気がなおるっていう、もうあきらめかけてたことがおこるほどの元気だったんです」

「きっと、それまで自覚したこともない、私のなかの、不幸とか無気力を乗り超えられるエネルギーそのものが、歓喜したんだと思います。無自覚な部分での歓喜だから、私には、その歓喜の質がわからなかったんです」

 梶井との出会いをきっかけに、24歳にしてはじめて家族以外の人間関係の渦の中に放り込まれていく志穂子。

「幸福という料理は、不幸という俎板の上で調理されるものなのだと、私はいつも思っています」(「あとがき」より)

冬は必ず春となる。
必ず、春となるのだ。

宮本輝の人間賛歌が、心を包みこむ。
そして、生命を包み返していく歓喜が広がる。

2023年3月9日

読書状況 読み終わった [2023年3月9日]

YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」で、毎日のように情報発信を続ける精神科医の著者。

「『生き方の決定版』を作ろうという企画からスタート」(「おわりに」より)した
という。

豊富な臨床経験と、多彩な資料を提示しながら、具体的にそしてわかりやすく「ストレスフリーな人」になる生き方を提示していく。

「科学的なファクト」と「今すぐできるToDo」を知れば、悩みの9割は解決するという。

人生の目的は何か。それは幸福になること。

では幸福とは何か。それには3つの種類があるという。

(1)「セロトニン」的幸福
「やすらぎ」「癒やし」「気分」の幸福感。

心と身体の健康や宝といったことだろう。

(2)「オキシトシン」的幸福感。
「つながり」の幸福感。

スキンシップ、コミュニケーション、人とのつながり、愛情、交流に関係している。

(3)「ドーパミン」的幸福感。
「やる気」による幸福感。

目標を達成したときに分泌される「成功」の物質。達成感や高揚感に関連している。

多くの人はこの(3)「ドーパミン」的幸福しか考えないという。

働き過ぎてうつ病になってしまったり、家庭崩壊を招いては何のための人生か。

自身の健康や家族を差し置いて、名誉や経済的成功のみを求めてしまう矛盾。

「人間が生きていく上で、私が一番重要だと考えるのは、セロトニン的幸福です」

「セロトニン→オキシトシン→ドーパミン」という順番で実現させていくのが大事です」(P332)

蔵の財よりも身の財すぐれたり身の財より心の財第一なり。

そして、精神科医として、また人として究極の問い。
「死にたい」と相談されたときの答えはこれしかないと言い切る。

「死なないで欲しい」

それは、今までに何人も自殺した人を見てきたからだと。

人生の、生命の究極の場面を何度も乗り越えてきた著者の、知恵の宝庫の超大全だ。


(本著から)

すべてのベースとなる「解決法」
 ストレスフリーの基本
○不安を行動で取り除く
○自力で解決できるようになる
○他人の力を上手に借りる
○生活を整えてちゃんと生きる
○最高のモーニングルーティン「朝散歩」をする

他人ではなく「自分」を変える

「仲間」と「家族」が活力になる

「天職」を求め、「やらされ仕事」から抜け出す

「疲れない体」を手に入れる

心を整え、「新しい自分」にアップデートする

「素直さ」こそが共通点

コンフォートゾーンから出る

ウィッシュリストを書く

決断グセをつける

「生きる意味」を考え続ける

「死」について考える

「幸せ」を手に入れる方法

「それでいい」を口グセにする

「今」にフォーカスして生きる

自分で決めて「自分の人生」を生きる

自分を大切にして生きる

自分から心を開き「相談」をする

必ず「動きながら」考える

毎日を「ポジティブ」に締めくくる

2023年3月4日

読書状況 読み終わった [2023年3月4日]
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