『公民共創の教科書』 民と公のパートナーシップで共に未来を創る (地方創生シリーズ)

  • 学校法人先端教育機構 (2020年6月17日発売)
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ESG投資やエシカル消費といった、公共を意識した経済活動がより一層求められてくる今後の世界においては、民間の本来の活動であるビジネス視点から見たとしてもさまざまなメリットにつながってくるはずだと考えます。
(引用)公民共創の教科書、著者:河村昌美・中川悦宏、発行:学校法人先端教育機構 事業構想大学院大学出版部、2020年、252

近年、公民が連携・共創していく機運が高まりつつある。その背景として、一つめは、AIやIoTなどSociety5.0の到来を受け、行政が有する知見のみでは社会的課題の解決を図ることが困難になってきていること。二つめは、少子高齢化社会の時代を迎え、限りある資源を最大限に活かし、課題解決につながる新たな価値をもつ活動を生み出していく必要に迫られてきているということであると考えられる。

「公民共創の教科書」の著者である河村氏と中川氏はともに横浜市の共創推進室に所属されている。近年、「公民連携」を謳った部署が各自治体においても出現し始めてきた。公民連携といえば、真っ先にPPPやPFIによる運営手法を思い浮かべる。しかし、本書では、PFIによる事例などは、一切触れていない。それよりも株式会社セブン-イレブン・ジャパンと社会福祉法人横浜市社会福祉協議会、横浜市の三者が協定を締結した「閉店・改装するコンビニの在庫商品を地域のために活用する」など、本来の公民が連携をし、共創していく事例が紹介されいて興味深い。

ここで感心させられたのは、公民が連携・共創することで、国連によるSDGs(持続可能な開発目標)を意識した新たな公共価値が創出できるということだ。今後の地方創生には、SDGsが最重要テーマであり、ESG投資が引き込めるかがポイントになるだろう。横浜市におけるセブン-イレブン・ジャパンとの取組みは、本来廃棄されていた閉店・改装するコンビニの在庫商品を有効活用するという観点から、SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」達成を目指す。また、コンビニから寄贈された商品は、地域の福祉施設や非営利団体を通じ、それらを必要とする地域の方々に届くようになる。これは、SDGs目標2「飢餓をゼロに」を目指すものだ。この関係は、行政、民間、社会ともに良しとする「三方良し」、つまりWIN-WIN-WINが得られる形となり、従来には存在しない、新たな価値を創造して解決を図るイノベーションとなる。これが公民共創の意義であろう。

従来から、行政と民間は連携していた。政策過程で市民の意見や提案を集めるパブリックコメント、また民間事業者に意見を伺うサウンディング手法もその一つであろう。かつて、私も防災部署に所属していたが、災害時における応援協定もその一つかもしれない。災害時には、市内の大規模小売店が炊き出し用の食材を提供してくれる。それも立派な公民連携である。しかしながら、これらの事例は、公民共創のレベルにまで達していない。私は、真の意味で公民が連携をし、新たな公共価値を創造する域にまで達しなければ公民が連携し共創する意味がないと感じた。特に本書では、フレームワーク、「公民共創版リーンキャンバス」の活用や、リーンキャンバスによって仮設を立てた共創事業アイデアをより詳細にし、全体を俯瞰できる「公民共創版ビジネスモデルハウス」というフレームワークも紹介されている。これらのフレームワークは、今後の公民共創に取り組む上で、とても有用なものだと感じた。

公民共創という言葉を聞いて、私は「企業は社会の公器」という松下幸之助氏の言葉を思い出した。従来から企業や各種法人、NPO、市民活動、大学や研究機関等の多様な民間主体は、社会が求める仕事を担い、新たな社会を創造してきた。まさに「公民」という言い方をするが、ともに事業目的は「公」である。民間主体と行政主体が連携し、新たな価値を共創していくことは、劇的に社会構造が変化する中で必然的な流れであると感じた。本書では、公民共創のフロントランナーである横浜市が得た形式知と実践知が惜しげもなく披露されている。まだ公民共創の分野は各自治体で手探りの状態が続いているところも多い。本書は、そのタイトルのとおり、教科書的な存在として、一つの解をもたらしてくれた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会・行政
感想投稿日 : 2020年12月19日
読了日 : 2020年12月19日
本棚登録日 : 2020年12月19日

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