美しい星 (新潮文庫)

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本棚登録 : 1681
レビュー : 186
著者 :
mkt99さん 小説など   読み終わった 

ある田舎の平凡な家族。彼らそれぞれがある時に円盤を目撃したことにより覚醒する。すなわち、自分らは実は宇宙人でそれぞれ違う惑星からやってきたのだと。そして、核兵器におびえる冷戦時代を背景に、人類に正体を隠しつつ彼らの人類救済事業がスタートする・・・。

三島由紀夫にしては風変わりなシチュエーションの小説だが、SF小説を装いながら自分にはブラックコメディーの小説のように思え、エスプリの効いたユーモアには大いに楽しませてもらった。(笑)シチュエーションは奇想天外だが、きめが細やかで端正な文章表現から生み出される真面目な精神展開や情景描写にて、ここでもほとんど隙が無い完璧な美意識が展開されており、それがまた可笑しみをも誘っている。
それぞれ別の惑星人だという家族それぞれの思惑の違いが物語の幅を大いに広げ、滑稽さも煽っているのだが、とりわけ、政治にうつつを抜かす長男と、宇宙人的(!)恋愛に浸る美少女の妹の様相は、一見風変わりではあっても、政治へ常に介在しようとする想いや、美少女の一途な破滅的な儚い精神と肉体といった三島節が炸裂していて、このあたりは三島ワールドテンコ盛りの楽しい世界でもあった。そして、彼らに横たわる精神の暗闇を乗り越えて、本性的には異なるはずの彼らの人間的な「家族の絆」の姿は、悲劇的な状況であったにもかかわらず、やはり喜劇のスパイスが充満していて、何とも微笑ましい限りであり、「家族」に対する挑発的な皮肉にも感じられた。
中盤に登場してくる敵対勢力の異星人は人類を核兵器にて美しく滅亡せんと画策していて、これがまたぶっ飛んだ連中なので何とも可笑しい限りであったが、彼らとの終盤での人類救済か滅亡かの議論は、三島の人類論、人間論、近未来終末論が対比効果により縦横に展開される白眉なクライマックスであり、この小説の構成の力強さを示すとともに、三島の社会や政治やひいては人類全体への挑戦であり、こうした奇抜なシチュエーションの文学的成功であったともいえる。
しかし、三島が一方で夢想した終末にはついに到らず、現在も漫然と進行している人間の歴史。本作に通底していた通り、三島も最後は個々の「絆」の確かさを理想として期待していたに違いない。
異色作であるというが、三島ワールドのエッセンスと三島の思考が十二分に詰め込まれた出色な文学作品であったと思う。

レビュー投稿日
2015年9月7日
読了日
2015年9月6日
本棚登録日
2013年3月18日
21
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