ムッシュ・クラタ (新潮文庫)

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本棚登録 : 274
レビュー : 36
著者 :
mkt99さん 小説など   読み終わった 

先日お亡くなりになられた山崎豊子さんの作品を何か読んでみようと思い、近くの本屋さんで長すぎない本と思って探していたら、大長編以外では短編集の本書しか残っていなかったので、これにしてみました・・・。(みんな考えることは同じだ!)
表題作の『ムッシュ・クラタ』のほか『晴着』『へんねし』『醜男』の4編を収録。どの作品も山崎豊子氏を有名にした社会の深層を鋭くえぐる長編小説ではなく、人間の性(さが)をみつめ、味わい深い余韻を残すような作品になっています。

『ムッシュ・クラタ』はダンディであることを身上としパリを愛してやまなかった主人公の倉田氏が、いかに自らを厳しく律しそれを矜持とする生活を全うしたかを、戦前・戦中・戦後という激動の時代を背景に、山崎自身が仮託した女性作家が聴き取り取材にて次第に明らかにしていく物語。孤高に一流を求める倉田氏の、表面は滑稽だが、しかし厳しく貫き通す態度は、読む者を最後には感慨深くさせる迫力を持っている。
最後に収録されている『醜男』はそれとは真逆で、外見は醜いが平凡に生きてきた定年間近の係長の主人公が、美人妻に翻弄され、たかられてもなお妻に未練を残す男の物語で、『ムッシュ・クラタ』とは好対照な作品であるといえる。本の構成上の配置からか、本書の最後の短編になっているが、読後感がその関係上あまり良くないので(笑)、最後に読まないことをお勧めする。(笑)あるいは、妻目線も並行で描かれれば、突然の豹変という腑に落ちない心情もカバーできたかもしれない。「醜」であることから「美」に痛々しいまでに尽くすその姿が切ないが、一方で「美」を求めて止まなかった主人公の最期の言葉は、周囲から思われる「幸福」とは別次元のあくなき男の憧れを痛烈に表しているといえる。
『晴着』は病気である夫から所望され、かつて思い出のある晴着を着用するまでを描いた物語。晴着を着るまでの過程の中で、彼女らの過去のいきさつがしみじみと描かれ、ラストの何となく予感されたシーンへと繋がっていくのだが、構成やシーンが物語としてよく練られていて、小品ながら感慨深い佳作となっている。
『へんねし』は主人公の大阪商家の主が妾をいくら持っても、意外と妻が嫉妬を抱かず、物分かりの良い妻として振る舞っているのだが・・・という物語。冷静以上?な妻の振る舞いがとてもコワい。(笑)
こうしてみると、『ムッシュ・クラタ』の気骨あるダンディズムといい、『晴着』の体格のよい男性描写といい、それとは裏腹の『醜男』の男性像といい、山崎の好みの男性像が窺われるようである。そう、『醜男』の主人公への作者の眼差しはあくまでも冷たい!それとは反対に『晴着』の姑や『へんねし』の妻、『醜男』の美人妻に見られるような女性の内面の冷たさの描きっぷりも凄く、山崎の「男というもの」「女というもの」を見る目はあくまでも鋭い。さらに、氏お得意の関西弁を駆使した会話や、『へんねし』のように大阪商家を背景とした物語など、山崎豊子が描く社会派小説とはまた異なる、氏がもう一方で得意としたテーマや技法を詰め込んだこの短編集はかなり贅沢なのではないだろうか。

いろいろと氏の作品は取り沙汰されることもありましたが、特に社会の暗部をえぐり白日の下に曝したその作品群は、現代社会を生きていく上で未だ忘れてはならないものばかりです。謹んでご冥福をお祈りいたします。

レビュー投稿日
2013年10月8日
読了日
2013年10月6日
本棚登録日
2013年10月4日
5
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