忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫)

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本棚登録 : 990
レビュー : 127
制作 : 土屋 政雄 
mkt99さん 小説など   読み終わった 

アーサー王の足跡がまだ人々の意識に残る中世イギリス社会。
人々は未だ鬼や怪物や竜の存在に怯えながらも慎ましく自給自足の生計を立てていた。
サクソン人とブリトン人は互いの交流は少ないものの、互いを侵すことなく平和な時代が過ぎていた。
だが、そんな社会に漂う不可思議な不安。人々は記憶を留めることができないのだ。
そのような不可思議な現象に不安を抱きながら、とあるブリトン人の老夫婦が息子の村を訪ねるべくいま旅に出た。果たして二人の旅にはどのような未来があるのか・・・。

ロード・オブ・ザ何とかとか、ロールプレイングゲームのようなファンタジー溢れる作品です。
主人公が老夫婦なのでファンタジーといってもひと捻りありますが(笑)、旅に出て、仲間が集い、スリリングな展開があり、怪物と対峙し、剣士と戦いがあるとなればこれは本当に視覚的に夢のような世界であったと思います。
修道院からの脱出のシーンなどは本当にハラハラドキドキものでした!
ただ、ラストを考えると凄くシニカルな作品であったと言えますね。あの老夫婦は最後どうなったのか?
これは意見の分かれるところがもしれませんが、やはり記憶が二人の妨げになったのでしょうか?

今回のカズオ・イシグロの作品は一段と明瞭に「記憶」にこだわった作品となっていました。
人々の社会を成り立たせるものは「記憶」が根本であり、「愛」も「憎しみ」も「記憶」を通して継続するものでありますが、その「記憶」が失われてしまったら人々の繋がりは一体どうなるのか?「記憶」はそんなに重要なものなのか?やはり人々は「記憶」を欲するのか?「記憶」からの呪縛から逃れることはできないのか?
明瞭に「記憶」にこだわるからこそ、カズオ・イシグロにはこうしたファンタジーな世界が必要だったのかもしれません。
ファンタジーな世界を見事な筆致で読者をぐいぐい引き込んでおいて、最後にみせるシニカルなラストは、拍子抜けする部分がある一方で、余韻の大きさゆえにわれわれの心に深く食い込んでくる何かがある気がします。

私の「記憶」と上手く付き合う方法は、適度に忘れることですが・・・。(笑)

レビュー投稿日
2019年2月17日
読了日
2019年2月11日
本棚登録日
2019年1月26日
17
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