2021年最初の読了本は、「8割おじさん」の半年を振り返った電子書籍。親交のあるという小説家・川端裕人氏の構成で、かなり専門的な内容を含むエピソードが手際よくまとめられている。
尾身茂と押谷仁、西浦博が日本のコロナ初期対応を支えた研究者たちだが、西浦のコメントを追いかけると、他にも多くの研究者たちが「専門家」として意志決定に参与していた(参与するはめになった)ことがうかがえる。印象的だったのは、小池百合子と厚労省が西浦の出した被害シミュレーションをどちらが口に出すかで暗闘していた、というくだり。とにかく安倍官邸も、菅の官邸も、都知事も、決断ができない。責任だけは取りたくないからだ。大阪府知事などは、「専門家が言うほどひどくなかったではないか」とスケープゴートにする準備をしていたのではないかと勘繰られている。自分たちが決めたわけではない、責任を押しつけるために「専門家会議」が使われ続けた、というわけだ。
西浦は本書で、「科学コミュニケーション」の必要性を指摘している。しかしそれは、この国の政府が言うところの「リスクコミュニケーション」とどう違うのか。東日本大震災以降、この国の「リスクコミュニケーション」は、政府の立場を「分からせる」という意味で使われてきた。西浦のいう「コミュニケーション」が、一方向的ではない、開かれたものとなるためには、どんな条件が必要なのか。少なくとも本書だけでは、理解することができなかった。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
社会
- 感想投稿日 : 2021年1月2日
- 読了日 : 2021年1月1日
- 本棚登録日 : 2021年1月1日
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