ああ、なんという幸せな関係だろう。
これはまさしく愛するものへの手紙だ。
北杜夫と辻邦生。
戦後間もない旧制高校で出逢い、終生の友と成った二人の、旧制高校卒業後から作家として世に出た頃までの往復書簡集。
これを読むと互いが互いのことをどれほど大切にし、頼りにし、愛していたか如実に分かる。
これはいってみれば恋人への手紙そのものだ。
それと共に二人の文学青年が手紙の上で、いかに真摯に文学的考察を重ねていたか、そのことに驚いてしまう。
北のある意味無手勝流で軽やかな生来の文学者としての筆遣い。
辻の論理的思索的議論とふと挟まる小説的描写の数々。
それは紛れもなく二人の資質の表れだ。
そして今の文学青年たちにこんな思索が出来るのか、疑問に思ってしまう。
それにしても、互いを僕のリーベ(恋人)と呼び合う様は、もちろんそれが旧制高校的符牒であっても、やはり相愛な、幸せな関係と言わざるをえない。
マンボウ航海で北杜夫が辻夫婦のいるパリに近付いていく辺りの互いに早く会いたくてワクワクそわそわした感じや、北が去ったあとの辻の落胆ぶりはほんとに恋人に対するようだ。
そしてこんな友を持てたことに、心からうらやましく、憧れてしまう。
憧れという意味では、この二人は個人的に自分の幼年期の憧れを呼び起こしてくれる。
それまでファーブル昆虫記やシートン動物記しか知らなかった僕がいわゆる文学というものの面白さを知ったのは、まさしく北杜夫の『ドクトルマンボウ航海記』や『青春記』なのだ。
そしてその中で辻邦生のことも知り、『天草の雅歌』や『背教者ユリアヌス』を読むようになった。
今でもとても好きな作品だ。
今回の書簡集に、航海記や青春記で引用されたいくつかの記述を見つけ、懐かしく、またあらためてそれらの作品を読み返したくなった。
- 感想投稿日 : 2016年8月21日
- 読了日 : 2016年8月21日
- 本棚登録日 : 2016年8月16日
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