世界の文学〈31〉ドノソ/夜のみだらな鳥 (1976年)

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感想 : 7
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 1970年発表、チリの作家ホセ・ドノソ著。名門アスコイティア家の末裔ドン・ヘロニモの息子ボーイが誕生した。しかしボーイは奇形だった。ヘロニモはボーイのために不具者を掻き集め、美醜の逆転した理想的な屋敷を作り上げ、そこに息子を住まわせる。屋敷の管理を任された秘書ウンベルトは大吐血し、奇形の血を入れられたことにより自らも奇形となる。彼は聾唖の老人ムディートとなって修道院に逃げ込むが、そこは魔女や奇跡に関する噂が飛び交う、行き場のない老女達がごみのように溜まる場所だった。物語はウンベルトの主観によって語られるが、彼の持っている「他人と自分を同一視する」という性質により、事実は湾曲され、分裂病的な狂気が溢れ出す。
 呪いの言葉の羅列を見ているような異様な小説だった。徹頭徹尾、分裂病的だ。ウンベルトはヘロニモや聾唖者や赤ん坊など何にでも変身してしまうため読み始めはかなり混乱するが、慣れてくると何となく彼の抱えている強迫観念が分かってくる。しかしそれが分かったとしても、そもそもストーリーの全貌を理解することは不可能だ。何でもありの悪夢、一見そう思える。ただ、彼の強迫観念(例えば医者に関して。不具者の臓器を入れ替えるなんて実際にはまずできないだろうから、それは彼の思いこみだろう)を考えるとあり得そうなストーリーはそれなりにしっかり見えてくるし、そのストーリー自体は相当ガッチリ作ってあるので決して何でもありというわけではない。候補が幾重かに分岐している、そんな印象を受ける。
 全体的に冗長で反復的なので文章に酔いそうになるが、最後の方の展開は何かハッとするものがあった。いよいよ崩れていく修道院と町人を襲う老女達、ようやく屋敷にやって来たヘロニモを嘲るボーイ、老女達が去る日に修道院に転がり込んでくるカボチャの象徴的な雰囲気、取り残されてまさに怪物インブンチェ(魔女が人間をさらって九つの穴を塞いで作るらしい)と化すウンベルト、消える語り手。決して読み終えてカタルシスがあるわけではないのだが、得体のしれない不気味な傷を心に残していく、そんな小説だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2014年1月16日
読了日 : 2014年1月16日
本棚登録日 : 2014年1月16日

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