科学者の戦争協力の歴史と日本でも急速に進む「軍学共同」の現状レポート。アメリカ軍からの資金流入や自衛隊装備開発への癒着、デュアルユース=軍民両用を隠れ蓑にした偽装など、新聞報道や雑誌記事で断片的に伝えられた既知の情報がほとんどであったが、改めて通時的・歴史的に軍学癒着の拡大を俯瞰すると、もはや致命的な状況にあることがわかる。衝撃だったのは、敗戦から未だ日の浅い1951年の時点で日本学術会議が科学者に行ったアンケートで、過去学問の自由が最も実現されていたのはアジア・太平洋戦争期という回答が最も多かったという事実で、潤沢な資金さえあればそれを研究の「自由」と錯覚する自然科学者の病理性を象徴的に示している。戦争=絶対悪、研究公開の不自由な軍事目的研究はどの科学者も本来は好まないという前提で本書の内容は立論されているが、すでにこの国では、科学者に限らず、特に年齢が下がるほど平和主義に対するシニシズムがマジョリティとなっている現実を考慮すると、5年ももたずして「負け犬の遠吠え」として本書は捨てられる悲観的な未来しか見通せない。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
評論・論説
- 感想投稿日 : 2017年9月4日
- 読了日 : 2017年9月4日
- 本棚登録日 : 2017年9月4日
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