故郷はいつだって優しいものだなと思う。歳をとり身体の調子が悪くなってきた昨今、そういう思いは強くなる。
親がいる。友達がいる。見慣れた風景がある。彼らがいなくなる日は必ずやってくるし、昔ながらの風景も実際は思い出とはかけ離れたものになっている。それでも生まれ育ったという記憶が甦り、生まれた所を離れて暮らす自分の現状、変わり果てた故郷の風景、それらをひとつにした塊の中に優しく包まれるような気分になる。
それでも、そんな優しさにいつまでも包まれているわけにはいかない。
いつの間にか似てしまったのかなと思える父親の顔を見て、自分と同じように日々の暮らしに四苦八苦している友達の話に耳を傾けるのは、懐かしさも手伝って、その心地良さを増幅してくれる。でもそれは同時に、変わり果てた自分の姿を再確認するための作業の一環なのかもしれないと思ったりする。こちらを見つめる親や友達の方だって、それは同じだろう。思い出を懐かむ心地良さに身をゆだねながら、顔を上げれば、それぞれに変わり切った日々の生活が待っている。明るいか暗いかわからないけど、不確実な未来が待っている。
故郷はいつだって優しい。でも、その優しい心地良さはいつだって、自分を見知らぬ場所や時間へと後押しし、追いやってくれる厳しさも持っている。
主人公の父親は本当に故郷に戻っていたのだろうか。
幼少時から引っ越しを繰り返し、父親の故郷で祖父への線香をあげながら、自分の人生の流れに身を任せる覚悟を決めた主人公はどこに行くのだろうか。
故郷は遠きにありて思ふもの、なんて、これまで何度も耳にしてきた詩を思い出した。優しい心地良さと厳しさとともに。
- 感想投稿日 : 2012年3月14日
- 読了日 : 2012年3月14日
- 本棚登録日 : 2012年3月14日
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