わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)

3.72
  • (82)
  • (151)
  • (147)
  • (14)
  • (7)
本棚登録 : 1167
レビュー : 147
制作 : Kazuo Ishiguro  入江 真佐子 
monaさん 海外ミステリー   読み終わった 

これを書いていたら、カズオ・イシグロさんが先程ノーベル文学賞に選ばれてびっくり。おめでとうございます。

この小説は、一言で言うと痛くて悲しいけれど少し希望もある不思議な回想録。
主人公の記憶の曖昧さや、思い込みや現実との乖離が気になりながら静かに引き込まれて行った。

同級生との会話の齟齬から始まり周囲からの歓迎ぶりや賞賛…上海での戦場シーンは特に何かがおかしくて、幼なじみとの邂逅シーンでは、実はアキラではなかったのかもと呟いている。

再会を熱望していたのは事実だろうし、一度は見かけた気がしているし、ならば戦場で出会った人物がアキラではなくて彼の妄想だったとすれば、怖いながらも痛く悲し過ぎた。

《両親を探し当てた後に開かれる予定の式典》は特に疑念でいっぱいだったが、まんまとイシグロの術にハメられ、結局、そんなものは開催される筈もなく、彼の妄想だと後から気付いた時にはゾッとした。

終盤、それまでの品位ある静謐な雰囲気から一変、唐突な叔父さんの独白はやり切れず、そこまで言うのかとおののいた。
終始彼の頼りなさや勘違いを感じていたけれど、それはある種の自己防衛本能で、叔父さんの衝撃の独白の前ではアリだと思えた。

とはいえ実のところ彼はそれを静かに受け止めたのかもしれない。母との辛い再会も彼の受け止め方は彼らしく、ずっと愛されていたことの方が大事だと考えるところが素直に素敵だと思えた。そして養女ジェニファーが最後の希望となり救われた。

読後、不思議な余韻が続いた。1930年代の美しい上海租界の情景が鮮明に浮かび戦場のシーンを除けば全体的にとても美しかった。

残酷過ぎた『わたしを離さないで』を超えて、カズオイシグロワールドを堪能した。

レビュー投稿日
2017年10月5日
読了日
2017年9月25日
本棚登録日
2017年10月5日
2
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワe...』のレビューをもっとみる

『わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。

『わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)』にmonaさんがつけたタグ

いいね!してくれた人

ツイートする