◎石川桂郎(『剃刀日記』)、久野豊彦(「虎に化ける」)、伊藤人譽(「穴の底」「落ちてくる」)、織田作之助

2021年4月2日

読書状況 読み終わった [2021年3月29日]
カテゴリ 国内短篇

短篇ながらずしりとした重量級の傑作が並ぶ。他の作品も読みたいと思ったのは、ドナルド・E・ウェストレイク(「悪党どもが多すぎる」)、ダグ・アリン(「ダンシング・ベア」)、アン・ペリー(「英雄たち」)、トム・フランクリン(「密猟者たち」)、G・ミキ・ヘイデン(「メイドたち」)など。

2021年3月23日

読書状況 読み終わった [2021年2月16日]
カテゴリ 海外ミステリ

8年ぶりに兄が帰ってきたけれど、あいにく家にはわたし一人しかいなかった……。「少女神曰く、『家のなかには何かある』」は、こんなカジュアルな始まりからは想像もしない終末の世界と、その果てにあるすがすがしい解放感が好きだった。
中篇の表題作は、仕事を失くし昔の親友に子供の世話を押し付けられる“あなた”の物語。変に大人びた9歳の少年と、ぜんぜん大人気ない中年女のボケとツッコミのようなやりとりを“あなたは……”とクールに観察する語りのおかしみ、疑似家族的ロードノベルみたいと思ったのに違うの?となって、ラストで不思議な希望がわく。
その他、計7篇+あとがき。
するすると気持ちよく入ってくる淡泊な文章に、すごくぶっそうなものが見え隠れするところが面白かった(2015-20)

2020年10月26日

読書状況 読み終わった [2020年10月25日]

MRジェイムズ第一短編集『好古家の怪談集』(1904)に、晩年のエッセイ「私が書こうと思った話」(1929)を併録。現在全集が手に入らない状況なので、今回非常に楽しみにしていた。表題作2作のほか「若者よ、口笛吹かばわれ行かん」など計9篇。彼の作品は、恐怖の実体を書きすぎるような野暮はせず、余白を残しておくスマートさが良い。ゾッとしたのは「秦皮の木」で17世紀末の魔女裁判を記録した文書のあとに処刑された女の言葉「お邸に客があるだろうよ」が出るくだり。古めかしい記録の中から突然肉声が聞こえてくるような生々しさがあった。

2020年10月23日

読書状況 読み終わった [2020年10月13日]
カテゴリ 怪奇幻想

「書き出し」(引用J・オースティン他)、「作者の介入」(G・エリオット他)、「意識の流れ」(V・ウルフ)など、50にのぼる小説技巧を実例とともにコンパクトに解説し、拾い読みするもよし、英米小説ガイドにするもよしでお役立ちの一冊。
少々イヤミなロッジ先生節も本書の読みどころで、「信用できない語り手」では『日の名残り』におけるスティーヴンズの英国正統派の執事的語りを、“客観的に見て、この口調に文学的美点は何もない”(p.212)と腐したり、「メタフィクション」を自意識をこじらせた現代作家の多くが取り入れたくなる手法だと皮肉ったり(p.278)という具合。
「サスペンス」の章を読んだ時には、どうしようもなく暗いイメージしかなかったハーディ作品への偏見が見事にひっくり返されニヤニヤしてしまいました。(1992)

2020年10月12日

読書状況 読み終わった [2020年10月12日]
カテゴリ ブックガイド

2030年、オハイオの地からロケットが飛び立ち、火星では空から誰かがくる夢を見たと妻が夫に告げた。幾度もの衝突と数多くの犠牲を出しながら地球人は火星をめざし…。『ワインズバーグ・オハイオ』に触発され、火星を舞台にさまざまな人々の人生の断片を描いた短篇集。新世界に降り立つ移住者たちの夢、希望といった純粋な感情は、先住文明側から見れば傲慢と鈍感という暴力性と一本につながっているという手痛い批判が込められている。それにしても火星に到達してからわずか6年で放り出すって、人類ひどすぎる。

面白かったのは老夫婦の前に地球で亡くした息子が現れる「2036年9月火星の人」(1950、※1997改訂版)

2020年10月10日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年10月10日]
カテゴリ 海外SF

オーレンが軍の犯罪捜査官としてのキャリアを捨て、北カルフォルニアの故郷へ戻ったその朝、玄関ポーチに何者かが人骨を置いて立ち去った。それは20年前、森で行方不明になった弟ジョシュのもので、罪悪感に苦しみ続けてきたオーレンは、長い空白を取り戻そうと真相を探る……。変わり者ぞろいの田舎の町の住民は、その多くがどこかに傷を抱え、何かを隠している。そして事態が進むほどに秘密がからみあって複雑な図が見えてくる。暗く抑えた文体ながらエモーションを強くゆさぶってくる物語にのめり込んでしまい、読み終えるのが惜しいほど面白かった。また家政婦ハンナのかっこよい事といったらもう(2008)

2020年10月9日

読書状況 読み終わった [2020年10月9日]

1829~1832年、地方の架空の町ミドルマーチが舞台。美人で財産のあるドロシア・ブルックは伯父と妹シーリアと暮らしていて、サー・ジェイムズのほか彼女に好意を寄せる男性は少なくないが、信仰厚い彼女には偉大な人物と結婚して崇高な人生を送るという理想があった。そして彼女は27歳年上で学識ある牧師カソーボンとの婚約を決める……。
適齢期の女性キャラを見ていると、制約が多い当時の社会で結婚相手を選ぶということは、今でいうキャリア選択により近いものだったろうかと思う。名門の出の医師リドゲイトと結婚して階級上昇を夢見るロザモンドしかり、カソーボンを通じ知識を得て偉業に貢献できると考えたドロシアしかり。ヴィンシー市長一家のメンバーは俗っぽいけれど生き生きしていて嫌いじゃない(1871-72)

2020年10月10日

読書状況 読み終わった [2020年10月6日]

シリーズ第二作。1997年、西部フィヨルドの別荘で父親が娘を殺害したとされる事件から10年がたち、疎遠になっていた被害者の友人ら4人が無人島のコテージで再会を果たす。しかし二日後、一人が崖から転落死しているのが見つかった……。前作から15年遡ってフルダ50歳。読者は彼女が仕事に没頭する理由も、その努力が報われないこともあらかじめ知らされており、彼女の葛藤を目にするたびいたたまれない思いをすることになる。そうやってじわじわとダメージが蓄積してからの残酷なエピローグには結構くるものがあった(2016)

2020年9月20日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年9月19日]
カテゴリ 海外ミステリ

舞台は80年代~90年代。サザンホスピタリティの伝統が残る南部の町で、パトリシアは良き家庭の主婦たるべく家事、育児、義母に追われ、不全感を抱えていた。彼女の唯一の息抜きは気のおけない主婦友と月イチひらく読書会で、その際にパトリシアの隣の老婦人宅に滞在する謎の「甥」が噂になった。そしてその夜、庭先で老婦人を見かけてパトリシアが声をかけると、相手は突然襲いかかってきて……。
保守的な町の良き家庭の主婦が、テッド・バンディやボストン絞殺魔、チャールズ・マンソンなど猟奇殺人本の読書会を開いてるのがイカしてます。
彼女らの夫と同様に主婦を半人前扱いしていた吸血鬼が思わずうろたえるバスルーム場面で溜飲が下がりました。主婦を舐めてはいけないという教訓。『マディソン郡の橋』のロバート・キンケイド=シリアルキラー説がおかしかった。
時代設定は88年~97年になっているけれど、親密で安全なコミュニティというイメージは、あくまでも白人の富裕層に限定されたもの、という今日的な問題意識が取り入れられているのは良かった。
著者まえがきにある、吸血鬼はシリアル・キラーの原型、という指摘が言い得て妙。吸血鬼は友も、家族も、ルーツも、子供ももたない。かようにあらゆる責任から解き放たれ、貪欲な飢えしか持たない存在と、家族の世話というキリのない責任を負う自分の母のような主婦とを対決させようと思ってこの作品を書いたのだそうだ。(2020)

2020年9月20日

読書状況 読み終わった [2020年9月16日]
カテゴリ 怪奇幻想

偶然立ち寄った村で古い屋敷が競売に出ているのを知った<僕>は、愛する女性と美しい家に住み、幸せに暮らすことを夢見た。しかし<ジプシーが丘>と呼ばれるその土地には不吉な噂があり、占い師の女は<僕>に「二度と来るんじゃない」と警告するのだった……。
動機の身もふたもなさ、薄っぺらさによって犯人の怪物性が際立つ。実は長いことロマンス名義系の作品と思い込んでスルーしてしまっていたのですが、おかげでネタバレなし・予備知識なしの状態でクリスティ後期の「大物」を読む、という嬉しい体験が久々に味わえてすごくラッキーでした。(1967)※Kindle

2020年9月12日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年9月11日]

俳人・月岡草飛の奇妙な日常を描いた連作集。月岡は著名な先生とはいえ、俳句詠みすぎだわ、いちいち薀蓄がくどいわ、ジョークは意味不明だわと色々つっこみたくなる人物で、言うことなすことが冗談なのか、それとも耄碌した故の妄想なのか判断に迷う。そしてそこへすっと幻想が入り込んでくると現実感がぐにゃりと歪む。
筒井的ドタバタの挙句に作者がいきなり顔を出し、
“つまるところ、結局、かいつまんで言えば、何だかもうめんどうになっちゃったな”(p.253)と匙を投げてたのには笑った。
筒井康隆のほか、D・ロッジの意地の悪さに通じるものも感じる。
どう見ても違うだろ!というポランスキー監督や、お下劣な“仔犬プレイ”が秀逸.
“おもひでの死にゆく音や落ち葉ふむ …… 思い出は、愛しむな、踏んづけろ、と思う”(p.198)は良かった。(2020)

2020年9月13日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年9月10日]
カテゴリ 国内小説

2010年度展覧会の公式図録。今回初めてまとまった数の作品を見ることができたのだけれど、長い画家生活において20代(1930年頃)から一貫したスタイルを維持し続けていたということが驚きだった。ややスモーキーな、それでいて透明感のある色使い、端正に整えられ不思議な「間」を感じる構成など、いつまでも愛でていたくなる一冊。地味井平造(じみいへいぞう)の名義で探偵小説家としての顔も持っていたという画家の、穏やかなユーモアのある人柄がしのばれるエッセイも収録されている。表紙の「猫」(1966、宮城県美術館)はいつか見に行きたい。

2020年9月7日

読書状況 読み終わった [2020年9月6日]

空を泳ぐ月の魚、都会の真ん中で愛を交わす巨大カタツムリ、たくさんの家と名前を持っていた一匹の偉大な猫など、動物を巡る25の物語。
シュールで静謐な絵がどれも素晴らしい。かつて実在したのに今では失われてしまった世界を見ているような、そんな架空の喪失感に何度も襲われた。用済みとされた馬たちの幻がハイウェイを自由に駆け巡る話や、ドアから漏れる光をじっと見つめるブタの後ろ姿などが辛い。でも、高層ビルの上の方でクロコダイルが人知れず快適に生きているかも?とか、寝てる間に赤毛の狐が悪さをしまくっているかも?とか思うとちょっと幸せな気分になれる(2018)

2020年9月3日

読書状況 読み終わった [2020年9月1日]

「これは小説じゃない。記録だ。備忘録。私と親友の冒険についての」とピエタは書き出す。親友のトランジは、一瞬ですべてを見抜く天才で、次々に死を呼び寄せる特異体質の持ち主だ。「メロンソーダ殺人事件」では、女子高生の二人がファミレスでグダグダとおバカな話をしている間に惨劇が起きる。能天気なペースにうかうか乗せられていると、突然グロテスクな光景に焦点を合わせられて仰天。非常に良いのは、この二人が20年、30年と年をとってゆくところで、後にはそこまでいくか、と驚くくらいある意味壮大な展開が待っているけれど、あっけらかんとしてブレない二人の友情がとにかく最高なのだ。
探偵事務所の大家さんの、「この際だから私も殺しちゃおうかしらって。八十歳の記念に」というブラックでチャーミングな告白や、不謹慎だけどツボにはまるセリフがたくさんで、何だか久々に元気が出ました。
(初出「群像」2013~2019)

2020年9月1日

読書状況 読み終わった [2020年9月1日]
カテゴリ 国内小説

4つの短篇と、書籍業に関する短い評論を収録。表題作が良かった。今は廃墟となった貴族の屋敷グランド・ブルテーシュ館には封印された忌まわしい過去が……。秘密を解明するためならば当時の女中の情人にだってなる、と好奇心が抑えられない<わたし>、詮索好きな宿屋のおかみ、滑稽な雰囲気の公証人など、ユーモアを感じさせる人々の描写が、ドロドロとして陰惨な事件の真相を効果的に引き立てる。あと、今回は巻末の年譜が読み物としても面白かった。バルザックの旺盛なエネルギーと、めまぐるしくて濃すぎる生涯の一端がうかがえる。

2020年8月24日

読書状況 読み終わった [2020年8月20日]
カテゴリ ヨーロッパ文学

「異色作家短篇集」<イギリス編>。J・メトカーフ、R・エイクマン、A・バージェス、M・スパークにA・E・コッパード等々、ラインナップが好みすぎて目次を眺めるだけでも興奮してしまう。そしてこういうアンソロジーにW・トレヴァーまで入ってくるとは何て豪華な。
ロバート・エイクマン「何と冷たい小さな君の手よ」が◎。アトリエにかかってくる奇妙な電話はどこへつながっているのか、ぼんやりと不可解な状況に嫌な想像がどんどん膨らむ。
ミュリエル・スパーク「棄ててきた女」の毒はちょっと他では味わえない。

2020年8月18日

読書状況 読み終わった [2020年8月13日]

「異色作家短篇集」<世界篇>。先日読んだ<アメリカ編>はエンタメ系作家が多めの印象だったが、今回はノーベル賞作家が2人もいるほか、初めて知る作家も多くてよりディープなラインンナップ。
カイロの住宅地で謎の連続絞殺事件が起きるN・マフフーズの「容疑者不明」は、蟻地獄に足をとられてゆくような嫌な感触が残る。
嫌な感じと言えば、編者も警告している通りE・マコーマック「誕生祝い」が凄い。
一番のお気に入りはR・ディヴィスの「トリニティ・カレッジに逃げた猫」で、ゴシック小説流の大仰な言葉をしゃべる怪物ネコが最高だし、ラストに思わず噴き出す。ラストシーンは猫バスで脳内再生していました。

<メモ>ぜひ読みたい→「High Spirits」 by Robertson Davies。“……短篇集High Spiritsは、大学小説集であり、幽霊小説集でもある。世の中に、これくらい楽しくて、タイトルが暗示するようにご機嫌になれる幽霊小説集というものは、そうざらにはない”(編者解説より)

2020年7月26日

読書状況 読み終わった [2020年7月26日]
カテゴリ 怪奇幻想

60年代に刊行された「異色作家短篇集」シリーズに、2007年新たに加えられたアンソロジー3冊の中の一冊、<アメリカ編>。
利発そうな少年から27ドル50セントで殺しを依頼される「貯金箱の殺人」が楽しい。ジャック・リッチーを読むといつだってゴキゲンになる。
ロバート・クーヴァー「ベビーシッター」は、登場人物たちの下品な妄想をぶつ切りにしたあとテキトーにつなぎ直したという風で、パラレルワールド的味わい。
R・A・ラファティ「浜辺にて」は恐ろしい(?)貝と少年の話。脱力系ユーモアと、悲惨なような、この上なく幸福なようなラストが良い。
他にジョン・スラデック、ハーラン・エリスンも面白かった

2020年7月21日

読書状況 読み終わった [2020年7月20日]
カテゴリ 海外短篇

中国文学、歴史小説、中国史、評伝、ミステリーなどなど、多岐にわたるジャンルの書評をまとめたボリューム感のある一冊。何しろ約30年分(1987~2018)もある上に、一冊の本に対し何冊もの文学作品や歴史書等がひもづけられていて、読んでも読んでも尽きることのない本の世界が広がっていく。特に中国の古典、歴史に関するものが多く取り上げられているので、中国文学史ガイドとして手元に置いておきたい。

<メモ>袁枚『随園食単』(岩波文庫)、倉本四郎『鬼の宇宙誌』(平凡社ライブラリー※品切)

2020年7月19日

読書状況 読み終わった [2020年7月17日]
カテゴリ ブックガイド

事故で夫を亡くしたばかりのイーデンは、彼が生前予約を入れていた湖畔のゲストハウスを一人で訪れる。しかしそこには20代の若いグループも宿泊していて、静かにトラウマと向き合うつもりだったイーデンの思惑はぶち壊しになる。そして深夜、グループの一人が殺され…。イーデンを含む誰もが裏表のありそうで、言動もややカンに触るところのある人物ばかりなので、彼らの嘘が次々に暴かれても意外性が感じられず、後半の謎解きもやや強引に思えて残念。むしろ、ディーヴァーが絶賛してることもあり、唯一いい人っぽいウォレンがどう豹変するかとずっと楽しみにしていたので、そこに一番驚いたかも(2018)

2020年7月14日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年7月13日]
カテゴリ 海外ミステリ

生前未発表作品を含む23短篇とエッセイ5篇、純度の高い毒を少しずつ堪能できて楽しい。
「スミス夫人の蜜月」では、夫人の狂気を増量したヴァージョン2がより不気味。
好みは、町のみんなを親しく知っていて、庭の薔薇がご自慢という、誰が見ても善良だが退屈な老婦人を描いた「悪の可能性」。老嬢の天真爛漫さと底知れない虚無にのけぞる。
こうして、幽霊なんかが出てこなくても、人の心の得体のしれなさだけで十分ホラーは成立すると思い知るが、幽霊譚「家」のまた怖いこと。
他にユーモアをきかせた作品も入っていて、一人旅の坊やがワルい女の道連れとなる「レディとの旅」が秀逸。
また、育児の奮闘を描いた愉快なエッセイを今回初めて読むことが出来たのも良かった。悪童に手を焼いた作者は、
「片手鍋に蓋をしながら、鍋に入ってるのがスパイク・ローランドの首だったらよかったのに」と思った、なんて具合にさらりと凄いことが書いてある。

2020年7月14日

読書状況 読み終わった [2020年7月12日]
カテゴリ 怪奇幻想

子ども時代、創作、奇妙な体験、旅、老いと死の予感、の5つのテーマで集められた20篇。
一人きりで暮らす島にどこからともなく一匹のリスが現れ、自己完結していた世界が大いに乱される「リス」が◎。ヤンソンの描く、たやすく飼いならさたりしない登場人物(動物)たちには、いつもハラハラさせられてしまう。
お気に入りの場所を巡り火花を散らす年配の二人の紳士「植物園」もそうだ。大切な体験を話してきかせるおじさん達の一見理解しにくい友情が愛おしい。
少年時代の憧れと結末をシニカルに描く「汽車」や、年老いて記憶力が衰え始めた女性が、これまで知りえた人間関係を相関地図に書き起こす、という侮ってはならない伯母の話「聴く女」も非常に面白かった。

2020年7月7日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年7月7日]
カテゴリ 海外短篇

文武両道で誰からも好かれるコネルと、変わり者あつかいされて友達のいないマリアンヌ。コネルの母親がマリアンヌの家で掃除婦をしていることから二人は関係を深める。だが友人に関係を知られたくないコネルは、心ない行動をとり、マリアンヌは黙って高校を去ってしまう。そしてその後二人は大学で再会するが……。

4年におよぶ、友情とも恋愛とも名状しがたい関係が、シンプルな会話と抑揚をおさえた筆致で描かれる。“○週間後”“○ヶ月後”という具合に時間を飛ばし、ドラマチックな場面をあえて書かないこともしばしばだが、そんな素っ気ないスタイルとは裏腹に、二人の切実な感情や痛みが手で触れられそうなほど生々しく伝わってくる。

BBCでドラマ化されて評判になっているそうで、言葉にされない様々なニュアンスをどう演じるのか見てみたくなった。たとえば夏休みにイタリアで久しぶりに再会した場面など→
“Looking in his eyes she says: Well, hello. He senses a certain receptivity in her expression, like she's gathering information about his feelings, something they have learned to do to each other over a long time, like speaking a private language. ”(p.161)

終盤、マリアンヌは自分たちの関係をこう振り返る
“All these years they've been like two plants sharing the same plot of soil, growing around one another, contorting to make room, taking certain unlikely positions.”(p.265)

(2018)

2020年7月3日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年6月30日]
カテゴリ アメリカ小説
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