タイトルにあるように金星に関係する話だが、最近観測された金星の日面通過に関するお話。100~120年周期に2回程度見られる珍しい現象である。次回は2017年。その後は来世紀まで見られない。
この本は、エドモンド・ハレーが自分の死後の1761年と69年に発生する日面通過を予想し、地球と太陽との距離を視差によって求めるよう世界中(欧州中)の天文学者に呼びかけた、世界初の大規模な科学プロジェクトに関するストーリである。世界規模のプロジェクトは最近始まったかのように思っていたが、この日面通過の観測が初めてであり、政府が資金を出して後世の手本と生る運営を行なっていた。視差を図るには、できるだけ北とできるだけ南で観測する必要があり、喜望峰やタヒチにまで遠征するチームもあったのである。
注目すべきなのは、このプロジェクトに参加したのは、天文学者だけでない。押し花や種子、鉱物、動物の剥製、土壌に関する詳細の報告や、現地の地理や気候、習慣の調査報告を山のように持ち帰ったとあるように、様々な分野の研究者が参加している。まさに近代学術探検の形ができているのである。この後、北米大陸を横断したメルウェザー・ルイスや、ビーグル号で航海したチャールズ・ダーウィン、エジプトに遠征したナポレオンなども多くの学者を同行させており、このプロジェクトの先見の明には驚かされる。国際的な情報交換と協力の重要性を理解していたわけである。
しかし、実際のプロジェクトに参加した人たちは、途中で行方不明となったとされ、祖国では死亡が宣告されるなど、不幸な話もあった。本の内容は、こうした実際の話しがメインであり、国際協力という華々しい話の裏にある人間の営みが感じられる。天文ファンだけでなく、広くお勧めの一冊です。
- 感想投稿日 : 2012年10月29日
- 読了日 : 2012年10月28日
- 本棚登録日 : 2012年10月28日
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