小国主義: 日本の近代を読みなおす (岩波新書 新赤版 609)

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  • 岩波書店 (1999年4月20日発売)
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日本の近代において、自由民権運動以来「伏流水」のように流れる「小国主義」(武装放棄、個人の自由尊重、削減した軍事費を産業・文化等へまわす)の伝統を見出し、1999年時点での改憲論に対し強い異を唱える著作。本書が出版されたのは今から8年前だけれど、9条を中心とした憲法改正は依然として、いやよりアクチュアルな問題として僕らの眼前に迫っているだけに、その意味で護憲の書として読むことが可能だ。

改憲派による「押し付け憲法論」の恣意性(歴史的側面において特に)は、日本史の学会内でもことに色々な論者によって主張されているのだけど、この本も戦後すぐ立ち上がった憲法研究会の憲法草案の内容と、日本国憲法の内容の共通性を見出すことで「押し付け憲法論」を論破している。にもかかわらず、世の中ではどうも「押し付け憲法論」が依然として優勢な気がするのは、伝えることを怠っている歴史研究者の怠慢なのだろうか?という気がしてくる。

それから、非常にアクチュアルな問題としては、軍縮や軍備放棄に対する理屈として必ず出てくる「もし他の国から攻められたらどうするのか」ということについても触れられている。これも『三酔人経綸問答』以来のアポリアとして今日も存在し続けていることが提示されていて、興味深い。ただし、この点に関して本書の回答は、これまでの護憲派の意見(無抵抗主義か、あるいは相手の「道義」を信頼することで戦争回避)を乗り越えるような見通しを提示していないような印象は受けた。この理屈で、果して他国脅威論を納得させることはできるのか。

というよりは、このアポリアにはおそらく回答はないような気もする。とすれば、多くの人たちはは他国脅威論にしても、軍備放棄論にしても、どちらの説得性にもある程度の理解を示しつつ、「まあ矛盾は矛盾としてもうちょっと様子を見ていきましょうよ」と曖昧な態度で現状を維持していくのが、最も「大人」な態度ということになるのだろうか。

ちょっと話が逸れてしまったけれど、本書での「現在」の「小国主義」についての疑問を1点だけ。「小国主義」に依拠して軍事費を産業にまわしたとしたら、グローバリズムのなかで個人主義と資本主義が一層進展してしまって、より残酷でひどい経済格差が少生じる社会になる可能性はないのだろうか。グローバル経済の問題と「小国主義」との関係がどのようなものであるのかは、読んでいて気になった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2007年11月13日
読了日 : -
本棚登録日 : 2007年11月13日

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