通史ものでありながら、通史っぽくない、近世都市史の本。著者本人もあとがきで「「通史」という叙述の形式についてはかねがね疑問を呈してきた」「自分にはこうした対象を選び、叙述の方法をとることしか、外に道はありませんでした、と頭を垂れるほかない」と述べている。
江戸の都市社会の奥深くというか、そこに生きる「庶民」の姿を描き出そうという著者の視座が非常によくわかる構成である。方法論は、「空間構造論、身分的周縁論、分節構造論」(p.245)の3つである。すなわち、通史でありながら、第1章で時系列に歴史叙述がなされるだけで、あとはいくつかの地域を取り上げてそれぞれ叙述を深める形式になっている点が、本書の最大の特徴といえそうである。本全体が、時系列に述べることにこだわっていない(なぜなら、方法論は前に述べた3つものに拠っているから)といえる。
このような叙述のあり方は、果して近世史だからできるのか、近代史でもできるのか…歴史学への一種の挑戦、にもなっているように思った。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
歴史
- 感想投稿日 : 2016年1月13日
- 読了日 : 2015年9月28日
- 本棚登録日 : 2016年1月13日
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