歴史戦と思想戦 ――歴史問題の読み解き方 (集英社新書)

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著者 :
おがちゃんさん 社会の科学   読み終わった 

 本書の題名が気になったのと,帯に「内田樹氏,津田大介氏推薦!」の文字が躍っていたのとで,読んでみたくなったのだが,なかなか面白かった。
 産経や日本会議など,アベの支援者(というか,アベもその落とし子だが…ここでアベとカタカナにしたのは,漢字を使うのがもったいないから…金子兜太に倣った)たちが発している「大日本帝国バンザイ史観」(これはわたしの造語)は,その「史観」を示すべく,真面目に(たぶん本人たちは真面目なんだと思う)諸外国(中国,韓国はのぞく)に理解を求めようとすればするほど,今の日本国にとり,マイナスにしかはたらかなくなることがよく分かる。本当に,今の日本国と日本の伝統を守りたいのなら,大日本帝国時代に行ったことを,今の日本国の人間がしっかり総括し,それを国際社会に示してこそ,である。
 この大日本帝国バンザイ史観のメンバーたちは,今の日本国への愛国心なんかないんだろうな。自分たちの言論や行動が,国際社会から日本国を浮きだたせている事さえ気づかないんだろうな。この人たちが持っているのは,愛「日本国」心ではなく,愛「大日本帝国」心だから,無理もない。

 本書を読み終えて興奮してしまって先の文章を書いてしまった。が,本書は,とても冷静に「バンザイ史観」のメンバーたちの著作を読み解き,その中にちりばめられている論理の飛躍や事実の歪曲,プロパガンダなどについて語ってくれる。

 バンザイ史観の人たちから見ると,わたしたち現代の日本人は,いまだにGHQに洗脳されているそうだし,コミンテルンにもやられているらしい。そういうことに,大部分の日本人は気づいていないという。そう,それくらい今のわたしたちは馬鹿だと言っている。

 自然科学の分野でも,非科学的な著作がでても,プロの科学者たちは,面と向かって批判はしない。それは馬鹿馬鹿しくてやってられないからだろう。「どうせ,消える,ま,娯楽だし」とも思っているのかもしれない。しかし,「水は何でも知っている」といいながら学校現場の道徳の時間にまでそれが入ってきたときには,黙ってはいなかった。おかげで,「水にありがとう」と聞かせる実践は学校から消えた。
 社会科学(たとえば歴史学)の分野でも,こういうトンデモ類のことにいちいち反応している暇はないかもしれない。が,最近のように,「従軍慰安婦はいなかった」「南京虐殺はなかった」と言い切るようなことが市民権を得そうになったときには,ちゃんとプロの世界から糺してくれる人が必要だ。教科書にまで影響するようになっては,ね。

 それにしても最近の出版状況は気持ち悪い。
 日本の経済力が頭打ちになったのを誤魔化そうとして,(大日本帝国の頃のことを持ち出して)韓国や中国を自分たちより下に見て,少しでも優越感を得ようとしているのが見え見えだからだ。この浅ましさが,本来の道徳からはほど遠いことに気づかないのだろうか? 道徳教育の教科化を進めた人たちの心には,どんな道徳心があるのか,本書で引用されている文章を読んでみるとよく分かる。
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河添 売春婦の経営が好きなのも,中国系や韓国系の黒社会でしょ? …『「歴史戦」はオンナの闘い』より
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 日本では,売春婦の経営をしている人,いないの? たくさんいるじゃん! こんな風な決めつけがあちこちに。
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本当に脳疾患ならお気の毒ですが,呆れてしまいます。
…ケント・ギルバート著『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』
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 他国の人をつかまえて「脳疾患なら…」などと言うってどういうこと? これが,「日本人の心を取りもどせ」といっている人なんですが,このような表現をする人に与することなんてできるわけないよ。

 論理的な批判ではなく,感情的な批判がいっぱいの大日本帝国バンザイ史観の人たちの本。買って読むのはもったいないので,図書館で借りてみるかな。

 山崎雅弘さん,非科学的な文章につきあってくれてありがとうございます。頭の中がスッキリしました。

レビュー投稿日
2019年9月11日
読了日
2019年9月11日
本棚登録日
2019年9月11日
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