帯には「自伝的小説」とあったが,おそらくほとんどのことは事実なんだと思う。自らのオモニをめぐる人々の生き方を中心に書かれた自伝的小説。
文字を書けず,読めもしなかったオモニの言葉には,生きて体験してきたからこその内容が含まれていて,一言一言が重く感じる。
母。それは、いつの時代にも子供たちの心を虜にせずにはおかない。幼少の頃,子供以外の何者でもなかったすべての者にとって,母は絶対的な存在だったはずだ。たとえそれが,激しい愛憎をともなっていたとしても。
と「プロローグ」の冒頭にある。まさに,だからこそ,姜尚中は「母(オモニ)」を公にする価値があると判断したのだろう。「母」というのは,だれにも通じる話題。そして,共に考えることのできる話題なのだ。
戦争中の日本に生きて,朝鮮戦争でふるさとが分断され,日本では差別的な待遇を受けながらも生きてきた在日の人たち。そのまっただ中を生きてきた「オモニ」の姿は,とても強くて,優しくて…。
姜尚中氏の文章は,とてもきれいな日本語だ。わたしなど,使ったこともない言葉で表現している。もっともっと言葉の勉強もしたいなと思わせてくれる本でもあった。
最後のオモニからのテープは,よかった。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
自伝・伝記
- 感想投稿日 : 2019年3月11日
- 読了日 : 2019年3月11日
- 本棚登録日 : 2019年3月11日
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