
行動分析学を使って「じぶん実験」をしてみようという内容。
行動分析学とは,やりたいけど続けられない,やめたいけどやめられない…というようなことを,その人の性格や意志の弱さなどに原因を求めるのではなく,別の客観的な原因を分析的に求めるということらしいです。
その方法を使って「じぶん実験」をすると,それまで「オレはそんなタイプだから」「わたしはだらしないので」といっていたようなことが,改善されることもあるというから驚きです。これは「使える科学」ということになります。(このあたりのことは別の本の紹介で書いておきます。→杉山尚子著『行動分析学入門』)
本書には,著者が大学で指導した学生の「じぶん実験」の例がたくさん載っています。その「じぶん実験」のための最低限の専門用語の説明もあるので,本気でやってみようという方は,本書を熟読して取り組んでみることも可能でしょう。ただし,その行動随伴性の捉え方が不十分でも,アドバイスがもらえないのが,大学生とは違いますが…。
まさに,分析と実践が表裏のようになっているのがこの行動分析学の世界のようです。面白い。
続けることを諦めるとき,私たちは「自分はだらしないから」とか「才能がないから」とか,何かしらの言い訳を考え出すものです。
でも,言い訳はいらないのです。続けることが難しいのは,りんごが木から落ちる現象と同じくらい自然な現象だからです。りんごが木から落ちるのは、そのりんごがだらしなかったり,力不足だったり,信じる力が弱かったりするからではありません。
他よりも早めに熟して木から落ちたりんごを「だらしない」と責める人はいません。責めたからといって,りんごが元に戻るわけでもありません。強風に耐えて落ちにくいりんごを作ろうとするなら,農学や遺伝子工学の力を借りることになります。あるいは気象学などの知識から風にあたりにくい畑のつくりを工夫するかもしれません。
野球の練習を続けられず辞めようとする子どもに「お前はだらしない,信念がない,才能がない」と叱るお父さんは,木から落ちたりんごに文句を言っているのと同じくらい効果がないことをしているのだと自覚すべきです。(本書p.40)
〈科学的に考える〉というのは,まさにこういうことなんですね。
本書に出てくる(というか行動分析学の)「好子」と「嫌子」という分析上の概念を知っているだけでも,なんでもすぐに精神論に陥るという日本人の危険性を減らしてくれそうです。
役立つ学問に出会った感じです。
- レビュー投稿日
- 2020年12月4日
- 読了日
- 2020年12月4日
- 本棚登録日
- 2020年12月4日