西太平洋の遠洋航海者 メラネシアのニュー・ギニア諸島における、住民たちの事業と冒険の報告 (講談社学術文庫)

  • 講談社 (2010年3月11日発売)
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 この本は、ポーランド出身の人類学者ブロニスワフ・マリノフスキが、1914年から1918年にかけてニューギニア島東部のトロブリアンド諸島で行われたフィールドワークに基づいて著した民族誌である(原著の出版は1922年)。
 よく語られることであるが、この本がもたらした人類学への貢献は、「フィールドワーク」という方法を、人類学にとって不可欠なものとして「定着させた」ことである。この本が出版される以前は、旅行者や宣教師からの「伝え聞き」によって集められたデータに基づいて、当該の「民族社会」が描かれる、ということがあった。
 当時の西洋人たちの多くは、「西洋」の側に属さない人々に対する偏見が強かった。しかしマリノフスキは、「きちんとした習慣などなく、獣のような生活をしている」と考えられた「野蛮人」と共に生活をすることで、彼らの生活様式が実は複雑なものであり、彼らなりの秩序をもって生活が営まれていることを明らかにした。そのことは、トロブリアンド諸島の人々にとって重要なものである「クラ」と呼ばれる交易についての記述や、クラの際に行われる儀礼についての記述を読めばわかるだろう。
 この本は、アルフレッド・ラドクリフ=ブラウンの書いた『The Andaman Islanders(=アンダマン島民)』と共に、「機能主義」と呼ばれる考え方を人類学の主流にしたことで知られている。現在の視点から見れば、機能主義に対してはいくつかの批判がある。例えば、現地の人々の「社会」も、西洋人の社会と同じように「経済」「芸術」「宗教」などの部分に分割できるという考えから脱することができなかったこと(竹沢尚一郎『人類学的思考の歴史』)、フィールドワークによって収集されたデータの解釈が機能の発見に終始しており(つまり、「Aという行為にはBという機能がある」という記述に終始している)、現地の人々が自分たちの慣習をどのように解釈するするのかが明かされていないこと(永田脩一「機能主義」、綾部恒雄 編『文化人類学20の理論』)、などである。
 しかし、こうした批判を生み出したからこそ、人類学はその批判を、人類学という学問じたいの問題として受け止め、乗り越えようとしてきた。フィールドワークを定着させたことだけでなく、こうした建設的批判を生み出したことを含めて、この本は、人類学の発展に大きく貢献したということができるだろう。

 ※ この翻訳本は原著の全訳ではなく、クラを中心とした形になっており、原著の内容が圧縮されて翻訳されている。この翻訳本じたいは人類学的にも、また読み物としても非常に価値のあるものではあるが、原著からバッサリとカットされてしまっている箇所があるので、きちんと読みたい方は原著も併せて読まれることをおすすめしたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会・文化人類学 Antropologia
感想投稿日 : 2011年4月16日
読了日 : 2011年4月12日
本棚登録日 : 2011年4月12日

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