築山殿無残 (講談社文庫 あ 35-1)

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  • 講談社 (1986年11月1日発売)
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 徳川家康の正室・築山御前の半生を描いた歴史小説。
 今川家の後ろ盾を失った築山殿こと瀬名姫と、嫡男・信康の許に嫁いだ織田信長の娘・徳姫との軋轢が導火線となり、母子の粛清を引き起こした悲劇を描く。
 家康との婚姻自体、今川と松平の紐帯であり、政略結婚が歴とした政治である以上、瀬名姫が素性と家柄を重視するのは無論のことだが、今作の彼女の帰属意識は殊に強い。
 今川一門に属する自負と美意識を抱き続ける瀬名姫と、後進の新興勢力である織田家の子女である徳姫との、女主人としての擦れ違いや葛藤が丁寧に描写されている。
 そのきめ細やかさは、現代の嫁姑間の不和にも通じており、理解しやすいがあまり、読み手の苛つきを誘引するだろう。
 一方で、育ちに恵まれた環境ではなかった徳姫の未熟さ、振る舞いのガサツさ、讒訴に陥る幼稚さが酷く目につく。
 こういう女が妻なら、そりゃあ男は寄り付かなくなるだろうと納得せざるを得ない。
 政略結婚の『駒』としては、難しい相手に嫁がせるには抜きん出た才覚が必須だが、本編の織田陣営は徳姫の愚かさも材料の一部とし、徳川方を切り崩す一助としたのではないかと勘繰りたくなってくる。
 身分ある女性の周囲には、取り巻きの侍女が多くいるのが自然であり、黒子の彼女たちの思惑や裁量も込みで、互いに真意が届きにくい距離が生まれるもどかしさも含めて、当時の言動を読み解く必要性も感じられた。
 築山御前と信康母子の処刑は、作中でも冤罪とされ、乱世の政略が渦巻く渦中に、スケープゴートとしての役割を振られた者たちの悲運が重い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(歴史物・時代物)
感想投稿日 : 2021年7月5日
読了日 : -
本棚登録日 : 2021年7月5日

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