本書の著者は1958年生まれ。自分より3歳年上。この世代の3年は意外と大きい。本書で取り上げられている岡林信康、高橋和巳、ウッドストック、小さな恋のメロディ、ローリングストーンズ幻の日本公演、パリの五月革命、文化大革命、すべて何となくわかるが100%共感できるわけではないから。

とくに音楽をあまり聴かなかった自分には岡林信康はわからない。その次の吉田拓郎も怪しくて、多分、次の中島みゆきとかに飛んでしまう。「小さな恋のメロディ」もリアル感がないし。高橋和巳は自分が高校時代にはもう過去の人という感じだった(何しろ大学生になったときはすでに時代は村上春樹だったんで)。

著者は高校紛争に遅れてきた世代。1971年京都の高校で紛争があり、その翌年に高校に入学する。左翼思想の残り香が強く立ちこめていたらしい。著者はその「思い」が現代の日本社会にもまだ残っているのではないかと指摘し、2009年の民主党による政権交代劇にも共通する「思念」を見る。

安倍総理は民主党政権時代を「悪夢の時代」と呼んで問題となっているが、多分、その「悪夢」の裏には、本書の「1971年の悪霊」(=「かつて共産主義が好きだったという幽霊」)と共通するものがあるように思う。

ちなみに自分が高校に入学した時、都立高校の紛争はすでに5年ほど前の話だったが、生徒会室にはバリ封鎖の写真が大事に保管されていたし、生徒会会長は民青系と噂される人だった。放送部に入部した自分は先輩から「この大きなテーブルで放送室が過激派に占拠されないようにしたんだ」と聞かされたが、「放送部は体制側だったのか?」と素朴に感じたものであった。

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カテゴリ 社会学

著者は農業の歴史の研究者である。そして、本書は農業に革命を起こしたトラクターの歴史について世界史的な視点から書かれた本である。通常、経済史の世界では内燃機関を搭載した輸送機械としての自動車の発明とその大々的な普及については特筆され、輸送革命、交通革命として論じられることが多いが、トラクターは輸送でも交通でもなく、人類史上画期的な農業生産性の向上を伴う「農業革命」の主役であった。またそれは大量の化学肥料投入と対になって進行した(牛馬の糞尿が肥料として使われなくなった)。

資本主義、社会主義などの社会体制を越えてトラクターが及ぼした変革の力はもっともっと考えられるべきテーマであろう。本書はその導きの糸となるものである。

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カテゴリ 世界史
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高校の教科書に書かれていることをベースにして紀元前から現代までのネットワークの世界史を叙述した本。バランスの良い叙述で読みやすく、一気に通読できる。高校の世界史等で何がどう教えられているかもよくわかるので、その意味でも勉強になった。

もっとも本書は、高校の教科書には「こうこう書かれている」という話ではない。事実の記載は高校教科書レベルでもそれをネットワークという観点から再構成するのは簡単なことではなく、本書はそれに成功していると思う。

自分が昔書いた論文も掲載されている川勝平太編著『グローバル・ヒストリーに向けて』(藤原書店、2,002年)も参考文献リストに挙げていただき、感謝。

2019年2月3日

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カテゴリ 世界史
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カテゴリ 経済学
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江戸時代の思想を神道・儒教・仏教の三教から俯瞰することを企図した本。新書ではあるが,ボリューム・内容ともに重厚であり,非専門家にはなかなか骨が折れる。

しかし,江戸時代の思想史は我々の近代と地続きであり,この近世の錯綜した思想を踏まえないと明治以降もわからないこともまた事実である。

体制に取り込まれて「葬式仏教」になってしまった江戸時代の仏教が意外と深いところまで思想を深めていたことや,体制の教学となった儒教・儒学の多様性,そして国学や水戸学に流れ込む復古神道と「日本イデオロギー」と言うべき関係性,そして表題にはなっていないが,西洋の学問とキリスト教への対応などが,縦横無尽の引用から明らかにされていく。刺激的な一冊である。

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カテゴリ 思想史

近年,グローバル・ヒストリーなるものが流行っているが,それに対する違和感をずっと抱いてきた。本書は,この西洋中心史観を脱却して生態環境など世界に共通する対象・問題を積極的に取り込み,世界史を描こうとする,最近学界で流行している方法であるグローバル・ヒストリーを「その視座・概念やデータの蒐集・使用などは,まったく西洋史の基準・方法そのままであって,それを無前提・無媒介・無批判に拡げただけである」と厳しく批判し,アジア史の個別的史実から歴史像を組み立てなければならないし,そうあるべきだと主張している。まさに同感である。

新書というコンパクトな書物の中で世界のダイナミックな動きを明快に描き出す筆力とぶれない論理構成の力には脱帽せざるを得ないが,一般読者にも比較的平易に読み通せる一冊だと思う。梅棹地図(文明の生態史観)も本書の叙述構成のひとつの柱になっていることにも注目したい。

2018年7月13日

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カテゴリ 世界史

本書は「スミスの挙げた資本主義の道徳的条件を満たすための挑戦として,スミス以後の経済思想史」を平易にだが,本質的に把握しようと試みたものである。

「お金儲けがフェア・プレイの精神とも,社会全体との富裕化とも切れた利潤獲得機械になってしまうことを,いかに抑止するか」という筋で,J.S.ミル,A.マーシャル,ケインズ,マルクスが取り上げられる。

一方,その筋からはずれると著者が考えるハイエクとフリードマンは傍流として位置づけられる。傍流ではあるが,現代の経済政策などに強い影響力をもつ経済思想という位置付けだ。

そして,最後に「組織の経済学ー現代の経済理論における株主の位置づけ」が置かれる。これは,「所有者が主役から降りていく」経済思想史の流れのなかに位置づけられる「経済学の本流」の最前線だからだ。

新書の帯には「一冊で経済学の歴史がわかる決定版入門書!」とあるが,経済学の歴史というよりも経済思想の流れであり,それは「お金儲けの暴走によって邪魔されることなく,庶民の努力を引き出すことが,豊かな国を作り出す本筋」という著者の思想によって紡がれたストーリーである。

しかし,そのストーリーは非常に説得性に富み,示唆に富んだものだと言えよう。

2018年7月11日

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カテゴリ 経済学史
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