犬身

著者 :
  • 朝日新聞社 (2007年10月5日発売)
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本棚登録 : 554
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 犬をこよなく愛するに留まらず、「犬化願望」を持ち、自己を「種同一性障害」とまで真剣に考える女性主人公、八束房恵。同年代の女性、玉石梓の犬になりたいという衝動を持ち、「Bar 天狼」のマスター、朱尾献の不思議な力により房恵は雑種の白い子犬「フサ」に変身し、梓に飼われることになる。
 中島敦『山月記』然り、フランツ・カフカ『変身』然り、この類の変身譚は主人公の内面を象徴する生き物へとその姿を変貌させる。本作も例に漏れないが、先に挙げた二作とで明らかに異なる点がある。それは「主人公の変身願望の有無」である。本作の主人公、八束房恵は異常と表現されても無理がない程の犬への憧れ、むしろ人間であることへの違和感を抱いている。気が付けば否応なく変身していた李徴やグレーゴルとは違い、房恵には変身するか否かの選択権が与えられていた。自覚と覚悟を伴った異種への変身。房恵は忠誠と快楽に満ちた犬としての新しい生をフサとして生きる。
 本のタイトルや「あの人の犬になりたい」という帯などから、変態的要素の濃い小説であることを覚悟して本書を手に取った。しかし読んでみると、本書はどちらかというとファンタジー要素の方が強く、少し拍子抜けしてしまった。読みやすくアレルギー反応を起こす読者も少ないとは思うが、生々しさやエグさの奥にある特有の妖艶さ、美しさというものは感じられなかった。房恵を犬に変える朱尾という人物も、始めは不気味な印象を受けるが、ラストはパンチが足りない。読みやすさに偏った結末のような気がしてしまった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年4月27日
読了日 : 2016年3月23日
本棚登録日 : 2016年3月23日

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