フラゴナールの婚約者

  • みすず書房 (1997年1月1日発売)
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本棚登録 : 42
感想 : 4
5

 ふと、この 『フラゴナールの婚約者』 (みすず書房) を
 読み返したいと思いました。

 フランスの作家、ロジェ・グルニエさんの短篇集です。
 手元にありません。
 引っ越しなどにまぎれて、どこかに行ってしまった本です。

 最初に出合ったのは、刊行間もない、8年か9年前です。
 ちょうど、高橋源一郎さんの本を編集しているときです。

 高橋さん宅に打ち合わせで行くと、
 高橋さんの本棚にも1冊、見つけました。
 ちょっと珍しい、濃いオレンジ色のカバーなので、
 すぐに目につきます。

 「『フラゴナール……』、いいですよね」(わたくし)
 「うん、いーよねー」(高橋さん)

 2人とも、そのまましばらく、黙り込んでしまいました。
 2人とも、それぞれの読後感を味わっています。
 少なくとも、わたくしには、そう思えました。

 こうした出合いのころのことを思い出していたら、
 また、どうしても、すぐに会いたくなります。

 行方不明になった、この旧知の友を、本棚に探します。
 やっぱり……いません。

 音信不通の人間の友達を探すのは、大変な作業ですが、
 幸い、本の場合は、本屋さんを巡れば、
 再び出合うこともできるのです。

 何軒目かで、再会しました。
 あの、濃いオレンジのカバーです。

 手に取って、カバーをなでてみます。
 この手触りです。

 外見だけではない。
 版面 (はんづら)も美しい。
 そういえば、この版面をまねて、
 文芸書を編集したこともありました。

 実際に読み始めて、驚きました。
 最初に出合ったときとは、
 お話の中身が、まるで違っているのです。
 姿形はまったく同じなのに、8年か9年で、
 こんなにも中身が変わるものなのだろうか。

 旧友は、わたくしが知らぬうちに成長を遂げていたのです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 短篇小説、掌篇小説
感想投稿日 : 2011年1月14日
読了日 : 2008年1月22日
本棚登録日 : 2011年1月14日

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