新世界より(下) (講談社文庫)

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著者 :
ニャ~さん 貴志祐介   読み終わった 

夏祭りの夜、ついに人間に反旗を翻し、奇襲を仕掛けたバケネズミたち。呪力という最強の武器をもつために、権力の上に胡座をかいてきた人間と、人間以上の科学技術を身につけ、虎視眈眈と下克上を狙って準備をしてきたバケネズミとの全面戦争が始まる。

ほとんど丸々1冊、バケネズミとの戦いが描かれていた下巻。上巻を読んでいた時から既に、私にはこの世界が怖くて気持ち悪いものに見えていた。人が生まれた瞬間から既存の価値観に洗脳し、一見健全な上っ面だけを重視し、その体面を保つことだけに注力するこの世界が不気味で仕方がなかったのだ(というのもひょっとしたら、現代の価値観に洗脳されているのかもしれないが、思想信条や表現の自由がある分、柔軟な考え方ができるのは間違いなく今の日本だろう)。それゆえ、どちらかといえばまだ現代人の感覚を持ち合わせているように思われるバケネズミに感情移入して読んでいた。

この世界の怖さは、あれだけ人間に協力した奇狼丸を平気で捨て駒にし、またそのことに感謝すらしていないことに象徴されるように思う。どれだけ「人が人を殺さない」「争いのない」世界と言っても、とても健全な感情をもった人の集まりとは思えない。人間が自ら神と称する世界なんて、ろくなもんじゃない。

人間の味方をし、救った奇狼丸と、人間を殲滅しようとした夜狐丸の、神と崇めた人間に対する本音が全く同じというのは興味深い。支配と隷属の関係がどのように出来上がるか(力と知恵のどちらが重要なのか)、そうした構図も見えるし、逆に権力が崩れ落ちる理由を物語っているではないか。

ラスト、バケネズミの正体が明らかになる。私が人間よりむしろ彼らの価値観に同調していたのは、やはり間違いではなかったのだ。むしろ、薄々そうなのではと潜在意識で思っていたことを突きつけられたショック。こんな後味の悪い小説は久々だ。バッドエンドは好きな方なのだが、それでもそう思ってしまう。貴志祐介氏は、救いのないストーリーを思いつく天才(そしてドS)ではないか。

様々な社会になぞらえたり(まるで今の日本を皮肉っているようにも思う)と、考えさせられる作品であったことは間違いない。特に、中巻からはノンストップで読み進めた。壮大な世界観、圧倒的な読ませる力をもつ物語であった。

レビュー投稿日
2012年10月18日
読了日
2012年10月18日
本棚登録日
2012年10月9日
4
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