お伽草紙 (新潮文庫)

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本棚登録 : 2119
レビュー : 160
著者 :
樹さん 文士危うきに近寄らず   読み終わった 

奥野健男の受け売りではないが、太宰という作家の神髄を見た。


太宰の代表作と言えば『人間失格』や『走れメロス』場合によっては『富岳百景』が上がるのではないだろうか。もっと通の人だと私の知らぬ作品が上がるのだろうが一般的な話でね。
私の中で記憶に残っているのは『斜陽』なのだが、もう一つが『駆け込み訴え』。
アレは非常におもしろかった。前にも書いたが太宰とキリスト教という混じり合わない。ではないが,
互いに無関心そうなもの同士がくっつきあって生まれた作品。その驚きも記憶を深くしているが、単純に非常にいきいきと上手く書かれていたことがおもしろかったのだ。
あれ以来こういう風な下地のある物語や出来事を、おのれの手で調理するのが得意な作家なのだろうという認識は持っていた。
その流れで本書『お伽草紙』も長らく読みたいと考えていた。
先に書いたように収録されている作品のほとんどが、下地のあるパロディーもしくはそう言う雰囲気を模倣して作られた物語だ。
長らく『お伽草紙』がすごくいいと言う話を聞いていたが、私には『新釈諸国噺』の方がよかった。西鶴と太宰のコラボである。時代的な(江戸情緒とも言えるのか、)味わいが物語に現れているのだが、それに太宰の正直なあばきとユーモアが含まれるために、読みやすくおもしろい。
太宰の現代的感覚、文章のモダンさってのは読んでいて感心することが多い。
まるで今第一線で活躍する作家のような錯覚を受けることすらある。それだけ、古めかしくも堅苦しくもない言葉選び、表現をするのである。それも本書の場合は書かれた時代が戦中なのだから、驚いた。こういう感覚を読むものに与えるのってすごいことである。
私の個人的な見解だが、いい意味でも悪い意味でも、現代的な小説文章の軽さって太宰の功績が本当に大きいと私は思う。


『新釈諸国噺』の他に私が気に入ったのが『竹青』。
まるで芥川が書いたかのような話だった。ストーリーが単純に好きだ。珍しくまっすぐな物語だ。
太宰的な塩梅いのよさで言えば『かちかち山』とかがいいのだろうが、どことなくふざけすぎ。いや私的にはもっと物語としての形をしっかりともって欲しかった。自分と物語の境界が文章中で曖昧になるのがあまり好きではないのだ。まぁ完全に個人的な趣向の話になってしまうが。


どことなく太宰って作家として敬遠してしまう部分が今でもなくはない。
私の様な生粋の三島好きだとあまりにも対極。情けなさというのを正直に書きすぎだと恥じらいみたいなものを感じてしまうんだろうな。(特に後期の作品の印象が強すぎるので)
しかし本著はそう言った部分が非常にきれいに物語とマッチングして花開いている。
太宰という”己”から切り離されて、一般社会という漠然とした中に、その哀愁やら情けなさが描かれていることでほどよい距離が生まれるからだろう。そうすると安心して眺められるのか。
って、最後はいやに真面目に分析してみたりして。

レビュー投稿日
2013年1月23日
読了日
2013年1月23日
本棚登録日
2013年1月23日
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