東京裁判 上 (中公新書 244)

著者 :
  • 中央公論新社 (1971年3月25日発売)
3.66
  • (10)
  • (13)
  • (27)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 188
感想 : 19
5

(2013.09.05読了)(2008.01.25購入)
【9月のテーマ(東京裁判を読む)・その①】
マッカーサーの来日から戦争裁判のための逮捕予定者リストの作成、戦争犯罪者の逮捕、東京裁判の準備、開廷、そして、裁判の様子へ。
東京裁判の準備から実施への様子が、非常にわかりやすくまとめてあります。
東条英機の自殺未遂、近衛文麿の自殺、広田弘毅夫人の自殺、皇帝溥儀の保身のための偽証、等、沢山のエピソードも書いてあります。
東京裁判は、裁判とはいいながら、前代未聞のものでした。裁判というのは、通常、法律が先にあって、その法律に触れた人を裁くことになっています。ところが、東京裁判は、戦争終結時に作られた法律によって裁かれたのです。
また、国として、戦争を行ったのに、戦争を行った時の国のトップや国の方針に従って戦争を行った軍人が個人として裁くことは可能なのか、ということでもありました。
さらに、「人道に対する罪」というのは、戦争前からあった罪で、戦う双方がやってはいけないもののはずなのですが、勝った側の罪は問題になりませんでした。
たとえば、広島・長崎に対する原子爆弾の投下、東京空襲、等です。明らかに非戦闘員を目標にしたものです。
また、裁判の形式をとっているけど、最初から判決は、決まっていたということを別の本で読んだような記憶があります。

【目次】
まえがき
第一章 東条の自決
第二章 戦争犯罪の定義
第三章 起訴状の伝達
第四章 一九四六年五月三日
第五章 広田弘毅夫人の死
第六章 皇帝溥儀証言台へ
第七章 ウェッブとキーナンの対立

●敗北後の日本(9頁)
「日本における天皇神聖という概念は、軍部によって軍自体の目的のために作りあげられた神話である。この神話を維持するのは、軍の不敗という伝説である。日本陸海軍が全勝をつづけることができてのみ、天皇は神でいられる。したがって、日本の軍事力の完全な崩壊は、天皇神聖の概念の崩壊となりうる。その結果、精神的真空状態と新しい概念の導入の機会が生まれるだろう。」
●終戦(14頁)
九月二日には、東京湾に停泊した戦艦「ミズーリ」で降伏調印式が行われた。
●ポツダム宣言(17頁)
日本政府は、ポツダム宣言の規定を履行することを約束して降伏した。マッカーサー元帥は、そのポツダム宣言を日本政府に実行させるために、やってきた。そして、ポツダム宣言は、日本に、軍隊の解体、民主主義社会体制の確立、言論、宗教、思想の自由と人権の尊重、軍需産業の禁止、平和的かつ責任ある政府の樹立などを要求している。
●東条英機の遺書(29頁)
英米諸国人に告ぐ
今や諸君は勝者たり、我邦は敗者たり。然れども諸君の勝利は力の勝利にして、正理公道の勝利にあらず。我等は只だ微力のために正理公道を蹂躙せらるるに到りたるを痛嘆するのみ。
●米国民への呼びかけ・1945年9月16日(34頁)
「米国民よ、どうか真珠湾を忘れてくださらないか。われわれ日本人も、原子爆弾による惨害を忘れよう。そして、全く新しい、平和国家として出発しよう。米国は勝ち、日本は負けた。戦争は終わった。互いににくしみを去ろう」(東久邇宮首相)
●三つの戦争犯罪(48頁)
「平和に対する罪」「戦争犯罪」「人道に対する罪」
「国際軍事裁判所条例」1945年8月8日・米英仏ソ四カ国によって調印
●広田元首相(86頁)
広田内閣時代に最高国策である国防方針が改定され、国策基準要綱が策定され、日独防共協定も成立している。もし、支那事変前後から太平洋戦争まで、最も重要な文官の政策決定者を求めるならば、その筆頭は三次にわたって首相をつとめた近衛公爵であろうが、近衛公爵が死んだとなれば、つぎにねらいをつけられるのは、広田元首相ではないのか。
●木戸日記提出(90頁)
陛下にはできるだけご迷惑はかけてはならないが、だからといって、陛下がいつもご承知ない立場におられたというのは、国家の組織を考えれば、通ることじゃない。むしろ、逆に、ほんとの陛下のお気持ちはこうだった、こういうお気持ちで対処しておられたということを示すほうが、陛下と天皇制というものを理解させる助けになるのではないか。
●起訴状(116頁)
1928年1月1日から1945年9月2日、すなわち満州事変から降伏文書調印の日まで、17年8カ月にわたって、いかに日本が国際的非道の限りをつくしたか、を述べている。
●不当裁判(169頁)
日本はポツダム宣言を受諾して降伏した以上、ポツダム宣言に定められた条件に従うが、それ以上のものに服する義務はない。したがって、戦争犯罪も、ポツダム宣言第十条に明言してある「我等の俘虜を虐待した者をふくむ戦争犯罪人」すなわち、宣言を発表した当時に知られている戦争犯罪である戦争法規違反者だけが、対象になるべきである。
●勝者と敗者(174頁)
「戦勝国の殺人は合法的だが、敗戦国の殺人は非合法だ」というにひとしい
「もし真珠湾空襲による被害が殺人行為であるならば、われわれはヒロシマ上空に原爆を投下した人物、この投下を計画した人物の名前を知っている。彼らも殺人者ではないか?」
●満州国とは(225頁)
「満州国なるものは全然自由がなく、全く日本の支配下におかれていた。国民、官吏、ならびに私もまったく自由を失っていた。すべてのものが日本に対して反抗心をいだいていたが、日本の非常に厳格な圧迫、圧制のもとでは何もすることができませんでした」(皇帝溥儀)
●通訳(258頁)
BC級裁判では、捕虜にゴボウを食わした、という証言を、「木の根」を食わしたと通約されて、虐待の証拠と見なされたり、あるいはなまじ英語で「ライス」(米)といったのを、発音が悪いために「ライス」(LICEシラミ)を食べさせたと解釈され、残虐行為の自白と見なされた例が、ある。

☆東京裁判(既読)
「秘録 東京裁判」清瀬一郎著、読売新聞社、1967..
「黄色い部屋」吉浦亀雄著、カッパブックス、1957.07.15
「パール判事の日本無罪論」田中正明著、小学館文庫、2001.11.01
「日本無罪論 真理の裁き」パール著・田中正明訳、太平洋出版社、1952.05.03
「落日燃ゆ」城山三郎著、新潮文庫、1986.11.25
「BC級戦犯裁判」林博史著、岩波新書、2005.06.21
「神を信ぜず―BC級戦犯の墓碑銘」岩川隆著、中公文庫、1978.10.10
「海と毒薬」遠藤周作著、角川文庫、1960.07.30
「遠い日の戦争」吉村昭著、新潮文庫、1984.07.25
「ながい旅」大岡昇平著、新潮文庫、1986.07.25
「生体解剖」上坂冬子著、中公文庫、1982.08.10
「巣鴨プリズン13号鉄扉」上坂冬子著、新潮文庫、1984.07.25
「遺された妻―BC級戦犯秘録」上坂冬子著、中公文庫、1985.08.10
「貝になった男」上坂冬子著、文春文庫、1989.08.10
「花岡事件 異境の虹」池川包男著、現代教養文庫、1995.09.30
「イラスト・クワイ河捕虜収容所」レオ・ローリングズ著、現代教養文庫、1984.06.30
「<戦争責任>とは何か」木佐芳男著、中公新書、2001.07.25
(2013年9月15日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
昭和二十一年五月三日、二年半余、三百七十回に及ぶ極東国際軍事裁判は開廷した。歴史上前例のない戦争犯罪人を裁く裁判は、戦争に敗れた日本人に何を問うたか―裁判の傍聴が戦史家としての出発点となった著者が、厖大な資料と、関係諸国・関係者への取材で、全容を解明する。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 戦後
感想投稿日 : 2013年9月15日
読了日 : 2013年9月5日
本棚登録日 : 2013年9月3日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする