ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

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レビュー : 68
著者 :
ちゃんなかさん 本/小説   読み終わった 

未知のウィルスと戦争により世界が崩壊した大災禍(ザ・メイルストロム)を経験した人類が、
二度と同じことを起こすまいと体内監視システム、WatchMeを開発した。
人々は、WatchMeを体内にインストールし、健康状態を常にWatchMeに把握・監視されている。
WatchMeで異常を検知すると、リンクしている個人用医療薬製薬システム(メディケア)がどんな万能薬でも作ってくれる。
WatchMeがあることで、全ての病気は消滅し、体型についても管理され、太りすぎもせず、痩せすぎもしない皆が皆同じ世界の話。


昨今、私たちの存在する現実の世界では、著名人の病気の告白が増えている。
自分と同世代の著名人が闘病生活をしているのを見て、応援する気持ちと、自分は大丈夫なのだろうかと不安になる人も少なくないはずだ。
病気にならないこと。それは人々が、お正月のお参りや、流れ星に向かってお祈りするほど願ってやまないことだ。
では、病気や痛みがない世界、それは果たして幸せなのだろうか。
WatchMeで身体を監視される世界、それを望むだろうか。答えはNOだ。

作中の主人公トァンと敵対する、ヴァシロフという人物の言葉が心にひっかかる。
WatchMeがオフラインになるエリアで、銃撃戦の末に胸を銃で打ち抜かれ、呼吸をするのも難しい中、こんな言葉を言う。
> 「ものすごく、苦しい。苦しいんだ。ああ、こいつが痛みってヤツなんだな。WatchMeとメディケアめ、人間の身体にこんな感覚があるなんて、よく隠しおおせたもんだ。」

痛みには様々な痛みがある。心の痛み。体の痛み。
痛みを感じることで他者の痛みも理解することができる、人に優しくなれる。それが成長だ。
例えば、上司にきつい言葉をかけられ、傷ついたとしよう。自分が上司になったら同じ言い方はしないと心に誓う。これは痛みを知っているからこそ思うことだ。
お酒を飲みすぎた翌日、頭痛、胃痛に悩まされる。身体がSOSを出していることを感じ、反省し、身体を休ませる。
自分自身で管理することで自分自身を知ることができる。
私たちの身体と心(意識)は常に一心同体であり、生まれてから死ぬまで切り離せないものである。身体と会話をすることはとても大事なことだ。

作中のヴァシロフがどこまで感じてこの言葉を言ったのか分からないが、
今まで感じたことのなかった痛みを感じることに幸せを感じているように思う。

程度の差はあれ、痛みを知ることは身近に溢れている。
病気や痛みがない世界は、トァンがそう言っているように、まっぴらだ。

> <i:WatchMeがからだに入るのは、おとなのあかし>
> そして女子高生のわたしはといえば、おとなになるなんてまっぴらだった。


作中ではWatchMeをインストールしていない子供や、インストールしていない後進国の人々と、
インストールしている上でハーモニー・プログラム(調和のとれた意思を脳に設定するシステム)を発動された人々とが共存する世界で、
その後、どうなるのか、については描かれていない。
個人的には、インストールしていない人々が技術を制圧して、"人"らしく生きる世界になっていてほしいなと思う。

今日の医療技術の発展は目覚ましい。
遠い未来だと思っていたことがもう実現の目の前だったりすることがある。
WatchMeのような体内管理システムが導入される日が実は近いかもしれない。

レビュー投稿日
2017年6月7日
読了日
2017年6月7日
本棚登録日
2017年6月7日
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