好きな女性(樺の木)のために嘘をついてしまう不正直で臆病な狐と、樺の木と狐の仲に嫉妬する不器用な正直者の土神が悲しい結末を遂げるまでが描かれている童話である。
人間が主な登場人物ではないけれども、人間の心理を突いた擬人化作品だった。樺の木のもどかしい感情や、狐の息をするように嘘をついてしまう臆病になる感情、そして誰かに嫉妬してどうしようもなく、常軌に逸した行動をしてしまう土神の行動らはどれも人間の心理を現わしていて読んでいてとても切なくなった。誰かを思った行動が誰かを傷つけてしまう結末を誰が望むだろうか。いつの時代にも変わらない難しい問題だ。誰にでもやけになって勢いで何かをしでかしてしまった経験はあるだろうから、読んでいて共感できる部分があると思う。この作品は宮沢賢治の亡くなった翌年に発表された。言葉の選びが繊細で優しく、宮沢特有のオノマトペがふんだんに使われている。この宮沢賢治の世界観は類を見ず、魅力的だった。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2020年1月31日
- 読了日 : 2020年1月31日
- 本棚登録日 : 2019年12月18日
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