面白い。唸ったり、笑ったり、食べた気になったり。「味覚についての随筆から辛辣なグルメ批評まで、食にまつわるあれこれを手練れの文筆家32名が腕によりをかけて料理する」と裏表紙の宣伝解説文。副題が〈アンチ・グルメ読本〉。★★★のおすすめ。
吉田健一で始まり獅子文六で終わる故人22人が前半。後半に瀬戸内晴美、佐藤愛子、竹西寛子などの現役9人。その筋で著名な、谷崎潤一郎、魯山人、池波正太郎なんかは当然入っていない。〈アンチ・グルメ読本〉でも、辺見庸「もの食う人々」なんかは入らない。あくまで「あさめし・ひるめし・ばんめし」で、人間のあからさまなおぞましさは選ばれない。武田百合子「言葉の食卓」が入らないのが不思議、実に残念。紅白歌合戦の出場歌手選び、難しいのだろうなあ。
上手い文章は美味いを表現できる。個性的な文章、文体と言って良いと思うがそれが美味。ありきたりの素材を優れた調理人が極上のご馳走に仕上げる、それを食べさせていただく感じ。餅、さくらもち、つけもの、梅干し、お弁当…こんなに奥深かったのか。本人の直接体験にまさるものはないはずの食と性。この頃は専ら食専門だが、生きる楽しさや哀しみをしみじみと表現しうる文学、言葉の可能性の追求、やっぱり面白いや。
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- 感想投稿日 : 2015年12月30日
- 読了日 : 2015年12月3日
- 本棚登録日 : 2015年12月30日
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