雪の断章 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M さ 4-4)

著者 :
  • 東京創元社 (2008年12月21日発売)
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孤児の飛鳥は、施設から本岡家に引き取られます。しかし、そこではお手伝いさんのように働かされ、いじめられます。耐えかねた飛鳥は、家を飛び出します。そこで、祐也さんと出逢います。三度目の出逢いでした。そして、祐也さんのもとに引き取られることになります。

与えられた運命のなかで、飛鳥は必死に生きていました。一人じゃ生きられなくて、大人に頼るしかない、逃げようのない子どもののほうが、大人よりしんどいのかもしれません。
飛鳥は自分を、「森は生きている」で真冬にマツユキ草をさがす少女と同じだと考えます。

強情で図太く見られることもあるけれど、本当は弱くて小さい飛鳥。自分だけでかたくなに信じ込んで、まわりを無視してしまう飛鳥。
そんな飛鳥が、祐也さんたちと過ごすなかで、どんどん成長していきます。

“不当な権力にしいたげられる哀しさは、味わった者でなければわからないからだ。平凡な奴、運のいい奴にはとうてい及ばないだろう。(p411)”
飛鳥の哀しさは、確かに想像することしかできませんが、心に響き、涙を流さずにはいられませんでした。
こんなに苦しんだのだから、しあわせになってほしいと思いました。

こんな心動かされる小説ですが、途中で、殺人事件が起こります。解説で、この長編は“メルヘン風ミステリー・ロマン”とありました。“純粋理論小説でありながら、文学にまで高められた作品。そのユートピアを佐々木さんは目標にしているのだ。(p420)”ともありました。佐々木さんはそれを為し得ていて、ものすごい小説だと思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ
感想投稿日 : 2018年12月14日
読了日 : 2018年12月13日
本棚登録日 : 2018年12月2日

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