2013/8/18読了。著者の訃報を新聞で見て、青空文庫のサイトを覗いたところ、公開されていたので、ダウンロードして読んだ。刊行当初に読み、その後、新品未開封のものも古書店で入手してあるが、著者自身が育てた青空文庫で再読するのがおそらく著者の意にもかなうだろう。
十年以上前、電子の本の可能性に気付いたごく少数の人たち(僕もその一人だった)が等しく夢見た、本の未来についての思いが語られている。その可能性とは、本を世に問うという行為を資本の手による独占から個人の手へ解放し、表現したい個人を救うという可能性だ。著者自身がまさにそうした小さな電子出版によって救われていく過程も本書には書かれている。
「電子書籍元年」を何度か経た2013年の現在、電子書籍はやや普及の兆しを見せ始めているが、著者たちが夢見た本の未来はまだまだ遠く、ビジネスとしての可能性以外に可能性としての価値を見出せない人々が舵を取るようになったためにますます遠い。グーテンベルクの活版印刷が発明された当初は手写本の生産の効率化にしか使われなかったと本書の終章にあるが、電子書籍もまだその段階だ。出版ビジネスの具に堕したと著者が嘆くDTPの轍を踏みつつあるようにも見える。
しかし、本書が残され、青空文庫でシンプルなテキストとして広く公開されたのは、本の未来にとって喜ばしいことだ。著者のご冥福を心からお祈りする。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
エッセイ
- 感想投稿日 : 2013年8月19日
- 読了日 : 2013年8月17日
- 本棚登録日 : 2013年8月17日
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