"阪神園芸さん"
野球好きなら多くの人が知っている呼び名。甲子園球場で行われる試合では、アナウンサーや解説者たちがリスペクトをこめてたびたびそのように紹介する。
みんながそうやって阪神園芸の仕事ぶりを話すので、新たな野球ファンたちも無意識に"阪神園芸さん"を尊敬する。裏方でありながら、テレビ画面を通してこれほど多くの人から仕事をリスペクトされる園芸会社はなかなかないと思う。
私もイチ野球ファンとして、"阪神園芸さん"はすごいと知っていたけれど、甲子園球場の土や芝が、実際どんな作業によって素晴らしく維持されているのか、何がそんなに他の球場と違うのかなど、詳しいことはほとんど知らなかった。
この本は、阪神園芸に入社しグラウンドキーパーになった青年のお話。もちろんグラウンド整備の話もしっかり書かれている。
阪神園芸の方々は、グラウンドの芝や土を1年かけて育てている。私は趣味で畑をやっているが、畑の作物の美味しさを決めるのは土。畑での作業と全く同じように、自然と向き合い、天気を見て、チームプレーであの広いグラウンドの"土"を耕し、育て続けている。その奥深さと作業の大変さは、予想を超えるものだった。
そして、主人公の青年や同僚、家族など、野球に対する何らかの強い思いを持った人たちが作るストーリーもとても面白かった。青年たちの成長と共に、自分自身も前向きに励まされていくような気持ちになった。
甲子園球場の土は、その上でプレーする選手たちをまさに育てている、最高の土なのだと改めて思った。
とても分厚い本だったけれど、あっという間に読み終えてしまった。甲子園球場に関する知識も、さわやかな読後感も得られる良い本だった。野球ファンでなくてもじゅうぶんに楽しめると思う。
余談ではあるが、この本を読んでから、以前なんとなく思っていた、甲子園球場に屋根をつけたら良いのになどという考えは全く無くなった。
- 感想投稿日 : 2020年8月22日
- 読了日 : 2020年8月22日
- 本棚登録日 : 2020年8月22日
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