ハイスクールU.S.A.: アメリカ学園映画のすべて

  • 国書刊行会 (2006年11月1日発売)
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感想 : 18

1位

この本は私の世界を一変させた。

アメリカの学園映画。
そんなのノーテンキなお子様向けでしょ?
アメリカ人って大雑把だからなあ。
ま、なかには傑作もあるんでしょうけど。

くらいの認識だった私。
とんでもない誤解でした!

アメリカの学校には厳とした階層があります。
学園女王のチアリーダーQueen Bee、
アメフト部員のいじめっ子Jocks、
スケボーとクスリが好きなボンクラSlacker等。
いわゆるオタクを表すにも
Nerds / Geeks / Brain / Freaks
と四通りの呼び方があるなど大変。

著者の二人、長谷川町蔵と山崎まどかが定義する
“学園映画”とは、そんなアメリカ学校内の
階級をきちんと描いた映画のことなのです。

例えば「バック・トゥー・ザ・フューチャー」は
主人公がヒエラルキーの下層にいるのに
キュートなステディがいるのが非現実的だし
親友が同級生ではなく大人の科学者ドクだから
大傑作ではあるけれども学園映画ではない!
意外と強固なジャンル意識がある分野なのです。

そうはいっても膨大な数がある学園映画、
なにが第一作かなんて分らないはず……
と思ったら、ちゃんと分るところがすごい。

それはジョン・ヒューズ監督
「すてきな片思い」('84)。
ちょっと新しすぎる気もするけど、
それにはれっきとした理由がある。

「もちろん学園を舞台にした
青春映画は昔からあったけど、
「優等生VS劣等生」「金持ちVS不良」
といった単純な対立関係だった。
もしくはメガネ君と不良が
なぜか同じ仲良しグループだったりするような
ありえない友人関係とか。
それに対してヒューズは現実を
はじめて映画に持ち込んだ。(略)
設定がリアルなままドラマを生みだした。
そんな話を作る人なんて
それまで誰もいなかったんだよ」

なるほど、そういえば
「アメリカン・グラフィティ」('73)
にはそういう対立がなかったなあ。
だから「アメ・グラ」は学園映画前史として扱われる。

ここから見えてくるのは未知の秘境・アメリカです。

1、「異性にもてる」ということに対して
おそろしいほどに執着すること。

そんなのどこの国でも同じだろー、と
お思いかもしれませんが、
アメリカはハンパじゃない。
なんてったって卒業パーティー「プロム」には
異性の恋人を連れていかなければならないから。

恋人のいない高校生は出席できないし、
もし一人で行こうと思ったら、学校によっては
「どうしてもパートナーが見つかりませんでした」
という但し書を親に書いてもらわなければならない。
うわー、イヤだ!
しかも、出席しないとコミュニティから
はみだすことになってしまう。
「それではモテの概念に取り憑かれるのも
無理はあるまいよ」と著者。そうだよねー。
それでも廃止されないところに、
プロムの甘美な魔力がある。

2、親の資産か先生の推薦がないと
  大学にはとてもいけないということ。

アメリカでは、大学の学費がべらぼうに高い。
その上、教師に気に入られないと
成績優秀であっても奨学金をもらえない。
「鬼教師ミセス・ティングル」(’99)では
奨学金が必要な生徒にわざと低い点をつける
鬼教師をヘレン・ミレンが熱演しているそうです。

3、田舎では週の半分はアメフト漬けだということ

ある田舎町では金曜の夜すべての店が閉まる。
全員で高校のアメフトの試合を観戦するため!
土曜には大学の試合が、日曜にはプロの試合がある。
「プライド 栄光への絆」(’04)は
閉塞感漂う活気のない町が舞台で、
町民全員がホワイト・トラッシュ。
高校アメフトが最大の娯楽で、
試合に負けると
「勉強させすぎなんだ」とコーチを叩く。
アメフト部員は、多少の悪業は大目にみられる。
それでも奨学金をもらって故郷を抜け出せる
部員はほんのひとにぎり。
高校のときは英雄でも、ろくな職につけない……。
さびれるところには、
さびれるだけの理由があるんだよね。

こうして見ると、アメリカ社会の問題を
映画は果敢に取り上げているのが分ります。

‘99のコロンバイン高校銃撃事件について、
犯人の高校生二人を最もリアルに描いたのは
「ボウリング・フォー・コロンバイン」(’02)でも
「エレファント」(‘03)でもなく
「ゼロ・デイ」(‘03)だ、という指摘が興味深い。

さて、学園映画はスターの登竜門でもあるし、
フォーマットがしっかりしているから
その分実験も可能になる。
古典のリメイクも盛んで、
シェイクスピアの『オセロ』『じゃじゃ馬ならし』
『真夏の夜の夢』を現代の高校に移した映画が
作られています。
仰天したのは『罪と罰』も
学園映画になっていること。
ええ、ドストエフスキーの『罪と罰』ですよ!
西部劇の名作「真昼の決闘」をリメイクした
「タイムリミットは午後3時」('87)はぜひ観たいなあ。

「学園映画」というキーワードで、
ここまで書けるなんて………。
映画好きな人はもちろん、
アメリカを知りたい人も、ぜひ読んで下さい。
英語にして逆輸出したいくらいです!

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 2009年ノンフィクションベスト10
感想投稿日 : 2011年9月16日
本棚登録日 : 2010年2月7日

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