恩田陸の技巧が炸裂している

2024年6月6日

読書状況 読み終わった [2024年6月6日]
カテゴリ 小説

アルツハイマー病研究の歴史を振り返り、断罪する本。

アミロイドプラークが脳に蓄積することがアルツハイマー病の原因であるという説に拘泥して他の仮説を排斥した結果、根治に向けた研究が全く進まず、15年を無駄にしたと著者は嘆く。
2021~2022年に承認されたレカネマブもアデュカヌマブもこのアミロイドを除去することを主眼においた薬で、病気の進行をわずかに抑える程度の効果しかなく、批判的に触れられている。
説得力がありながらも門外漢にも理解できるわかりやすさとほどよいユーモアで読みやすいが、途中の数章は痛烈に過去の研究を批判しており、いずれも「こんなやり方で人間の疾患を研究できるはずがない。」という印象的なフレーズで結ばれている。筆者は今後の研究の進め方について提言をしているが、その一方でアルツハイマー病のニュースを調べると、アミロイドを除去する新薬が出来たという報道しか見当たらず、暗澹とした気持ちになる。

関連する本を他に読んだこともない私がこの本を読むとアルツハイマー病の研究には明らかな問題があるように思われてくるが、少しWebで検索したくらいでは同様の主張というのはあまり見られない。従ってこの本の医学的な主張を真に受けてよいのかどうかはいったん留保する方がよさそうに思われる。ただしこの本の医学的な主張は、アミロイドが直接の原因になっているという単純なモデルはさっさと捨てて、もっと複雑なシステムをモデリングして広い視点から様々な仮説を立て、広汎な基礎研究をすべきだ、というものである。○○でアルツハイマー病が治る!といった安易な解を一切匂わせないという点で、この本の信頼度はとても高いと感じられる。いずれにせよ、もう少し他の立場からの見解をまとまった分量で読みたくなる。

一般的な失敗の構造として捉えるなら、相関と因果を取り違えて(あるいは違いを無視して)、また様々な仮説を吟味せず棄却することで袋小路にはまりリソースを浪費したということになるだろう。著者もアミロイドの蓄積がアルツハイマー病の発症と相関を持つことは認めていて、この点は何度も強調している。ただ因果が全くわかっていないことをなぜ突き詰めなかったのか、というのが指摘であり、これは著者の言うとおり臨床医師と研究者の根本的な考え方の違いによるところもあるのだろう。
我が身を振り返って考えると、現場のエンジニアというのはある意味で臨床医師に近いところがあり(「目の前に困っている顧客がいる」)、要求された機能・性能を満たすプロダクトを納期までに完成させることが第一義となりがちである。性能の理論的な検証やバグがないことの論理的な裏付けは二の次となることも多かった。ビジネスや組織の要求と真実の追究のバランスは常に難しいものがあり、他山の石としたい。

2023年9月11日

読書状況 読み終わった [2023年9月11日]
カテゴリ 医学

前作同様、ほとんどの登場人物を含むあらゆる設定や舞台装置が単に密室を描くためだけに存在していて、もはや通常の小説としての体裁はかなぐり捨てているようにさえ見える。
にも関わらず殺人と謎解きがテンポ良く進んでいく快感がすばらしく、ある意味では純粋なミステリの体験といえるかもしれない。
次回作がもしあるなら、喜んで買う所存です。

2022年12月12日

読書状況 読み終わった [2022年12月12日]
カテゴリ ミステリ

インターネットに関する授業で、ASが最上位の存在としてあり、BGPで相互に接続されているという説明は聞いていたが、具体的に何がどうなって繋がっている(あるいは繋がらないでいる)のかは全く理解していなかった。そのあたりのぼんやりしたところの一端を見せてくれる本。

2022年8月25日

読書状況 読み終わった [2022年8月25日]
カテゴリ ネットワーク

コロナ禍のエッセイ。

私もこの時代に感じたことを記録しようと思って折に触れてブログを書いていたのだが、そのようなものは全く不要であった。綿矢りさがその感性をもって書いてくれていたのだから。

2021年10月3日

読書状況 読み終わった [2021年10月3日]
カテゴリ エッセイ

並行プログラミングを理解・運用するためには広汎な分野の知識が必要となる。つまり難しい。
同期処理(排他等)、非同期処理(Rustのasync/await等)、マルチタスク(コンテキストスイッチ、スケジューリング等)、並行計算モデルといった、並行プログラミングに必要な知識がこの本にはコンパクトにまとまっている。こういった書籍はあまり見かけないと思うので、並行プログラミングに携わるなら読んで損はない良い本だと思う。
並行処理を実装するにあたり、本質的に難しいポイントを(少なくとも読む前よりは)意識できるようになった。

一方で、実用アプリケーションを実装するための即戦力あるいはチートシートのような内容は含まれない。この意味では、「入門」というよりは「基礎理論」といった方が内容を表すのには近いかもしれない。
説明は基礎から丁寧になされているので、決して上級者向けということではないが、C/アセンブリ/RustやAArch64、λ計算などについては多少の前提知識があった方が理解が進むだろう。

ちなみに図やたとえ話が、なんというかやや独特の感性で書かれているので、あまり理解の助けにならない印象ではあった。また文体が硬く、慣れない人は面食らうかもしれない。

2021年10月3日

読書状況 読み終わった [2021年10月3日]
カテゴリ プログラミング

2部に分かれていて、前半はストレージエンジンについて。Bツリーを基本とする多種のデータ構造と、それをストレージ上に配置する各種手法について。
後半は分散システムについてで、通信から分散トランザクション、合意アルゴリズムについて。

それぞれの要素について数多くの種類が説明されていて、基礎知識の無い私からするとデータベースマニアが書いた本という感じを受ける(褒めています)。あらゆる分野で先人の努力があってアルゴリズムが発達してきたことを感じられる素晴らしい本。

余談だが、個別の議論については他分野とリンクする部分も多い。たとえばキャッシュに関する議論についてはCPUのデータキャッシュの議論と共通する部分があるし、スパニングツリーはネットワーク分野で標準化されている。こういった内容を狭く深く扱う本があれば読んでみたい(たとえばあらゆる分野のキャッシュを広く論じた「キャッシュ」みたいな本)。

2021年8月23日

読書状況 読み終わった [2021年8月23日]
カテゴリ データベース

いい、じつにいい。最高。くらいしか言えることがない。ミステリなので……

2021年7月20日

読書状況 読み終わった [2021年7月20日]
カテゴリ ミステリ

ブルシット・ジョブ(社会的に無意味であると本人が思っているような苦痛を感じる仕事)に関する幅広い論考。

中でも、ブルシット・ジョブは富の分配(取り合い)に伴って生じてくるという話には大いに納得した。
生活保護の審査をしているひとたちや、大学の競争的資金の管理をしているひとたちが例として上がっていたが、私の身近なところでは会社の定期代や経費の支出に関わっているたくさんの人たちのことが想起される。

ここだけ切り取ると安易に社会主義・共産主義に走るような本なのかと不安に思うかもしれないが、安心してほしい。ブルシット・ジョブにはたくさんの種類があるし(なくてもよいのに……)、出てくる個々の体験談には誰にでも共感できる程度のものから、信じられないものまであり大変おもしろい。

思い返せば私が就職するときにコンサルとか金融業界とかに行きたくないと思っていた理由は業界自体がブルシットなものに見えていたからだ。結果として私はその道に進むことはなく、実際にブルシットな目に遭っていたかは定かではない。その後の10年間、外から見ている限り、彼らの仲間になりたいと思うことはただの一度もなかったが。

報酬にも仕事内容にも一定程度満足している現状のありがたみを感じられる一冊であった。

2021年7月18日

読書状況 読み終わった [2021年7月18日]
カテゴリ その他

校正者のエッセイ。半分は普通のエッセイ、もう半分が文法にまつわるエッセイといった感じ。
エッセイはユーモアに溢れていてとても面白く、文法の話も英語に明るくない私にもわかるように書かれて(訳されて)いる。総じてめちゃくちゃおもしろい。

装幀もほんとうに素敵なので、紙で買ってよかったと思える。

2021年7月4日

読書状況 読み終わった [2021年7月4日]
カテゴリ エッセイ

SOLID原則をはじめとした設計について。DI推し。

2021年6月7日

読書状況 読み終わった [2021年6月7日]
カテゴリ 設計

伝説の名著が改版されたのでまた買って読んでいる。私は仮にもプログラマとして10年くらいやっているので、想像も付かないような内容というのはほとんど出てこない。口の悪い人なら当たり前のことばかりが書いてあると言うかもしれない。出てくる項目はほとんどすべて、「わかる、そういうことあるよね、、、」となるようなことばかりだ。

しかし、ここに書いてあることをすべて暗記して常に述べられるようにするというのは簡単なことではない。「言われれば思い出す」ような教訓がいつでも手に取れる状態で良くまとまっていれば、それは拠り所として常に私たちを助けてくれることだろう。

2020年12月31日

読書状況 読み終わった [2020年12月31日]
カテゴリ プログラミング

分不相応な「夢」を掲げて資金を集め、不可能なエベレストに挑み続けて命を落とした「登山家」の話。

栗城氏が存命中に「夢」というエンターテインメントとして消費されていたとするなら、これは「死」をエンターテインメントとして彼を消費する本だと感じる。

読後感が悪いのは登山家氏の生き様が悲惨だったからではなく、醜悪なコンテンツ消費社会の一端を読者たる自分が担っているからだと気づかされるせいだろう。

2020年12月14日

読書状況 読み終わった [2020年12月14日]

良かった……

2020年11月18日

読書状況 読み終わった [2020年11月18日]
カテゴリ 小説

連合軍によるパリの解放から第四共和政の終焉までを濃密に描いている。期待に違わず、膨大な資料から大きな流れが描かれているすばらしい本。

占領や解放、困窮、アメリカ文化の流入に対する反応のひとつひとつにパリの人の気質や文化にかけるプライドを感じられ、現代のフランスにたいするイメージと似ているところがあると感じる。

本書の主題とややずれるが、パリ解放からの成り行きがワルシャワのそれと対称を成しているように感じられてならない。
パリは(ヴィシー体制の対独協力のおかげかはともかくとして)町としての体裁を保ったまま解放されて文化は生き残ったが、ポーランドのようにドイツの支配に徹底抗戦していたらはたしてどのようになっていたのかという疑問が浮かぶ。
もちろんこの差異には背後にいたのがソ連だったのか米英だったのかという非常に大きな差をはじめさまざまな要因があったには違いないが、非常に興味深い。

2020年8月10日

読書状況 読み終わった [2020年8月10日]
カテゴリ 歴史

アウシュヴィッツからイタリアに生還した筆者の、解放から帰国までの旅路について。様々な人間が非常に、非常に豊富な表現で、ときにユーモアを交え描かれておりすばらしい。

(本題からは外れるが)ナチスの蛮行によりこのような才能がどれだけ葬られたのかと考えるとつらい気持ちになる。

2020年6月22日

読書状況 読み終わった [2020年6月22日]

執筆当時、ふがいない連合国のせいでソ連について書くことを許されなかったという事情を差し引いても壮絶な話だった。個人の視点に徹して書かれているが故に迫ってくるものがある。

ちなみに、この本はレジスタンスのメンバーであったカルスキの活動についての体験全体について書かれた本で、ナチスのユダヤ人収容所に潜入したことはその活動の一部である(最も強い印象を残す場面ではあるが)。「私はホロコーストを見た」という書名にはあまり感心しない。

2020年6月20日

読書状況 読み終わった [2020年6月20日]
カテゴリ 歴史

壮絶な蜂起の終焉と、その後のソ連の過酷な支配について。そして長く待ち望まれた自由民主主義国家の樹立に至るまでが、上巻とかわらず詳細に書かれている。

2020年6月13日

読書状況 読み終わった [2020年6月13日]
カテゴリ 歴史

ナチスドイツがポーランドを苛烈な占領下においているところに、ソ連が攻め入ってきたタイミングで起きた1944年のワルシャワ蜂起に焦点をあてた歴史の本。

蜂起に至るまでのいきさつや周辺環境、前提知識を詳しく説明してあるのも良いし、また関連国の主要人物の行動や意思決定の経緯が詳細に記述されている。そして多数ある囲みはで個人個人(市民、国内軍兵士、ドイツ軍兵士……)の体験談が綴られている。とにかく、ポーランドの過酷な歴史と壮絶な蜂起の描写が圧巻だった。

ただの戦闘の記録にとどまらない、濃密な歴史が描かれた大作。

2020年6月6日

読書状況 読み終わった [2020年6月6日]
カテゴリ 歴史

COVID-19が蔓延している時世に読むのは悪くない選択だったように思う。

パンデミック小説といえば感染症に対する社会の機能的な応答が描かれると思うが、本書はそういう話ではない。感染症への対策が失敗した社会がどのように変容するかを描いたディストピア小説だ。それも最高の。

2020年4月11日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2020年4月11日]
カテゴリ SF

二人のキュートな掛け合いを読んでいるだけで幸せな気持ちになる。最高です。

2020年3月15日

読書状況 読み終わった [2020年3月15日]
カテゴリ ミステリ

戦争に負けた国で戦争の悲惨さを語られて育ってきた私からは想像がつかないが、戦争に勝った国では勇ましい話しかできなかったのだろう。ロシアで語られてきたであろう戦争像との乖離を思うと複雑な気持ちになる。
当然戦争の悲惨さに男も女もないはずだが、このすごい本が女性により女性から聞き取った内容からできていることの意味を考えたい。

2020年3月3日

読書状況 読み終わった [2020年3月3日]

料理の本なのか、望郷の本なのか、西側文明への皮肉まじりのラブコールなのか、まあとにかく面白い。とりあえず壺でも探しにいくか。

2020年2月18日

読書状況 読み終わった [2020年2月18日]
カテゴリ 料理

黒人奴隷がアメリカに連れてこられた頃から、奴隷解放、公民権運動を経て現在の法的な平等(ただし明確に格差が残っている)な状態に至るまでの変遷について。

本書でも触れられていたように合衆国憲法制定の頃には黒人奴隷がいたわけで、マディソンらの考えていた民主制の想定する人民に黒人は含まれていたのだろうかなどと考えると暗澹たる気持ちになる。

また現在でも黒人と白人の間には(当然法的な平等は担保されているにしろ)明確な格差があり、男女の格差の問題にも通ずるものがあると感じた。しかし最後に引かれているキング牧師の言葉の通り、人種間の問題でなく人類に共通する貧しい人の問題になりつつあるという見方は大切だと思う。

2020年2月13日

読書状況 読み終わった [2020年2月13日]
カテゴリ 歴史
ツイートする