【言葉の海】という文句が何度となく頭によぎるような小説だった。テーマやモチーフはもちろんだが、その表現の緻密と語彙の豊かさに脳みそをわしづかみにされ、登場人物の細かい心情の揺れを強制的に体感させられるような暴力めいた文章力だと思った。
【悪魔】のくだりや、崇が何度も自問する場面などは『カラマーゾフの兄弟』のイワンを思い起こさせる。終盤の、崇が砂浜で入水するシーンは、イワンが悪魔と口論するシーンと重なって見えた。冒頭からずっとギリギリのところでせき止めていた彼の「何か」は、ここで「決壊」してしまったのだろう。他者に対してはいくらでも「優しく」なることができた彼は、自己に対してはそうできなかったのだろうか。
読後すぐに消化できるタイプの小説ではないようで、まだ自分の中に残滓のようなものが漂っている。ゆっくりと浸透していくことができればいいなと思う。
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- 感想投稿日 : 2012年11月2日
- 本棚登録日 : 2012年11月2日
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