悲しみの歌 (新潮文庫)

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本棚登録 : 769
レビュー : 95
著者 :
nari-akiさん  未設定  読み終わった 

本書『悲しみの歌』は、『海と毒薬』の続編となる…、と、あるのは、みなさんのレビューの通り。

『海と毒薬』は、太平洋戦争末期、九州大学医学部で行われたアメリカ兵捕虜の生体解剖実験を元にした物語で、戦時中の話。

そして、本書『悲しみの歌』は、戦後の話で、復興を果たした20年後の話になるだろうか。

主人公の勝呂医師は、新宿で開業医をしているが、その新宿を中心にさまざまな人物が登場し、描かれる。

似非文化人の大学教授やその娘、反権力を訴える(やがて、スーツを着て企業に勤めていく)大学生。

勝呂医師の“過去’”を曝く正義感に溢れた折戸記者と同僚の記者野口。

そして、末期癌患者のおじいさんとその面倒をみていたガストン。

他にも、多くの、かつ、魅力的で重要な人物が出てくる。


刊行されたのは、かなり前になるので、出てくる言葉も時代を感じさせる

戦時中の倫理観の狂いから起きた事件が、戦後の人々を苦しめ続ける。

深い事情や彼の心理を知らない者たちは、その事件の表面だけを見て彼を糾弾する。若い新聞記者である折戸を始め、さらにその表面だけを「知る」顔のない世間の一般人も。

折戸(や世間といった)勝呂を糾弾しようとする正義感は、きっとその時代の倫理観からすると正しいのだろうけれど、善と悪は、それほどすっぱり簡単に二つに割り切れるものではない、と。


ただ、自分も(たぶんこの本を読んだ人も)、簡単に、“勝呂医師”や“折戸記者”のような人物に絶対にならないと断言できないという、恐ろしさもある。

本当に「正義」って何だろう?と考えさせられた。

本書の最後に触れられていたが、安楽死の問題も、重要な描写。


少しネタバレになるが、最後の場面で、別の記者でなく、折戸記者が、目撃者になっていたら、どうなっていただろうか。


ガストンは、やはり、イエスのメタファーなのかな。

どこまでも、優しく包み込む。

レビュー投稿日
2017年2月19日
読了日
2017年2月18日
本棚登録日
2017年2月8日
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