ゆきゆきて、神軍 [DVD]

監督 : 原一男 
出演 : 奥崎謙三 
  • GENEON ENTERTAINMENT,INC(PLC)(D)
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感想 : 56
4

天皇の戦争責任を問うアナーキスト奥崎謙三のドキュメンタリー。
ニューギニア戦線で終戦後処刑された2名の兵の死の真相を追求すべく、処刑に関わった6人の上等兵・衛星兵を訪ねていく。

ヤバいと評判の映画だったが、見てみたところ実際にヤバかった。そして見ごたえがあった。


■奥崎謙三の人物について

言っていることは(常識的には)ムチャクチャだが、彼なりのロジックがあり、正義があり、筋がある。その筋を曲げずに必死に論理的に口角泡を飛ばして滔々と説明する様は、狂人のそれではあるが、この人物を一目させる魅力にもなっていた。

口調や挨拶は丁寧だが、とはいえ基本的には相手を追求するために訪れているのであり、引くことは全くしない。「英霊の為に」「真相追及の為に」という大義名分を掲げて迫られる方はたまったものではない。

それも、飲食店営業であれ、早朝であれ、奥さんが迷惑がっていてさえ、上がり込み押し通すので迷惑。「この人たちは身内が死んでいるんだ。人の死と、銭稼ぎと、どっちが大事なんだ」と迫る。

丁寧ながら、スイッチが入ると激昂して暴力を振るうことを厭わない。
「なんだその態度は」とか、殴りかかる。

その上で自分で警察に連絡する。追及に当たっても、自分で警察を呼んで「この状況は拘禁に当たるでしょうか?」と聞く。この開き直りは滑稽であるが、「~~だから自分は天皇ヒロヒトにパチンコを飛ばした」「許せないので(前に訪れた上等兵を)ぶん殴ったわけです」などと平然と説明し、法を恐れない態度を淡々と伝えるので、追及される方は内心はぎょっとしているだろう。

暴力について、自分は正しいと思ったらこれからも振るっていく、と断言しており、この点もやはり筋を見せている。



■「演技」である可能性について。

映画から見えた人物像は以上の通りの「純粋すぎる人物」だったが、一方でwikipedia等をみると、それが「演技」だった可能性が示唆される。

まともな左翼活動家や、「ひとつの正義の為に筋を通した人」を演じた、やはり頭のおかしい人だったのではないか、実際には筋も何もない人物だったのではないか、という可能性はぬぐえない。

宇宙人のようなスピリチュアルに傾倒したり、書籍を売り上げようとしていたり、議員に立候補したり、事績を見ると俗物的な側面も垣間見える。

そう考えると、不気味さというか、恐ろしさもある。

いずれにせよ彼はやはり狂人で、何が彼を狂わせたかと言えば、それはやはり戦争なんだろう。戦後苦労して何とか商売しようとしていて誤って人を殺して10年間独房に入れられて、自省する中で戦争体験がよみがえり、狂ってしまったのかもしれない。



■面白かったやり取り

冒頭で東京に行くにあたり、自分から警察に連絡して面談し、仁義を切っている様子はおもしろかった。「勝手にいかれると立場があるでしょうから」などと伝える。警察も身体の心配をしてくれたり。

奥さんはこんな人に付き従っていて辛くないのだろうか、と思ってみていたが、最後に殺人未遂で留置所に入った後の奥さんの様子はノリノリでサポートする気満々で、むしろ街宣車で夫を擁護していたりして、意外だったが、ほほえましかった。



■追及された人たちの反応

それぞれの反応を一応まとめる。

【処刑された兵の妹】
追及する姿勢は強硬。霊が話しかけると言ったり、階級が低い人から食べられたに違いないのだと断定したり、思い込みは激しめ。

【元上官】
訪ねてきた奥崎氏をみて、何も言わず挨拶だけして家に招き入れるさまは、内心は迷惑そう。だが、実際にはそれなりに会話してくれた。

【石和の人】
のらりくらりとして、「それだけは言えません」「これだけは言わせていただく。やましいことはないもなかった」などと紋切型で言い切りつつも、追及されてのらりくらりとかわすさまは狸おやじという感じ。のらりくらりは下策。

【衛生兵】
困りつつも、わかっていることを伝えてくれた、気弱そうな人物。

【殴り合いになった人物】
最初に会った際は憮然として、ゆえにケンカになる。「なんだこいつは」「なんだいまさら」と腹立たしく思っていたのだろう。
そうした経緯もありつつ、二度目に会ったときには前回のことも気にせず、朝五時という時間でも当時のことを話してくれた。過去には誠実なのだろう。

【射殺した古清水隊長】
関係者の証言を見れば射殺は明らかだが、やっていないと言い切るさまはどうなのだろう。もちろんカメラも回っているし、今更言えないというのはあっただろう。が、他の人とのインタビューが無ければ古清水の話を信じてしまいそうで、つまり「嘘」で、彼なりに事情はあっただろうにせよ、印象はよくない。

【最後の人】
病気飲みにありながら、当時はみんなが仕方なかったし、それぞれにそれぞれが考えがあるのだ、ということを、感情的になりながらも赤裸々に話してくれた。



■真相について

戦争期の非合法な処刑の真相解明(当初戦病と言われた2名の兵が軍法会議を通さず1945/9に敵前逃亡を理由に処刑された)で話が進みつつ、中盤から展開し、カニバリズムの話になる。

現地人は「黒豚」、白人は「白豚」と呼んで食べていたこと、上官は知らなかった可能性があること。
それはある小部隊のちょっとした出来事ではなく、ある程度の規模で行われていたこと、当たり前のこと、公然の秘密だったらしいことが語られる。

食べるのは「白ブタ」で、なぜなら「土人」はすばしっこくて捕まえられないし負けちゃうから、という語りはリアルだった。

そして、日本兵同士でも食べていたことが明かされる。すべての舞台ではないせよ、くじ引きを引いて殺したり、役に立たない人物から食べられた、おれは沢の方角が分かったり役に立つから免れたが、誰かは誰かを殺そうとし、誰かはそれに反対し、ということが横行していたことが語られる。

集団においては、次は自分の番かもしれない、というリスクがあるようなことはしないのでは、と思ったがそうでもないらしい。

ところで、軍法会議を通さず処刑、のような横暴も当時の末期にはまかり通っていたのかと思ったが、これが問題として扱われているし、命令が無ければそんなことはしない、という言い方からも、そこまで無法ではなかったことがうかがえる。
その一方で、兵同士で食い合ったりということもあり、場所によって温度感に差はありそう。

ウクライナ戦争でワグネルは処刑もやりまくっているが、蓋が空けば倫理のタガが外れる、というのは古今東西かわらないだろう。が、それが平時に戻ったときにどう扱われるか、「そういうものだ」なのか「公然の秘密として後ろめたく蓋をする」のか、その違いはあるのかもしれない。



■1980年の昔ながらの風景に懐かしさ。

とにかく映像が懐かしかった。
車も古いし、草木が茂って、家の居間なんかも雑然としてもっさりとして。藤子不二雄のSF短編集とか初期のドラえもんみたいな景色が広がっていた。

女性もみんな昭和のギャグマンガのモブのおばちゃんばかりで、割烹着をきて、今はなきステレオタイプ。現代の画質のきれいな作りものみたいなドラマではない、あの時代のドラマ。


その先に自分の子ども時代も続いていて、なんだか胸が締め付けられるような情景だった。



EOF

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 映画
感想投稿日 : 2023年2月15日
読了日 : 2023年2月15日
本棚登録日 : 2023年2月15日

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