嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか

  • 文藝春秋 (2021年9月24日発売)
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2007年日本シリーズ。
中日にとって、勝てば53年ぶりの日本一という試合。

日ハムの先発ダルビッシュから2回に犠牲フライで1点を取るが、その後は得点を奪えない。
対する日ハムは得点はおろか一人も出塁できず、8回終わってスコアは1-0と中日がリード。
誰もが、山井投手の完全試合と中日の日本一を目撃する瞬間に居合せていることに興奮していた。

9回表、観衆の山井コールが止まぬなか、落合が球審に向かい歩を進め耳元で囁く。

「山井のところに、岩瀬」

結果がどうであれ、ここで山井を交代させる理由はない。
日本中の野球ファン全員をガッカリさせる常識破りの采配。
今までメジャーリーグも含めて、完全試合を目の前にしたマウンドに、リリーフ投手が送られたことはない。

このシーンの真相がわかるかと期待したが、本書にも当時書きたてられた記事以上のものはなかった。
落合自身が本心を何も語らない以上、「リードしていれば、9回は岩瀬」に決めていたと想像するしかない。

この試合で負け投手になったダルビッシュの完全試合未遂を思い出した。
レンジャーズ時代の2013年アストロズ戦。
ダルビッシュは 9回も簡単に2人を打ち取りあと一人。
ダルビッシュの正面に打球が飛び、やった!と思った時、なんと股間を抜けてセンター前ヒットに。
この瞬間、完全試合は消滅しダルビッシュは交代した。

落合の基本姿勢は、「自分が他人の望むように振る舞ったとき、その先に自分の望むものはない。」ということだ。
不可解な采配に対しては「自分と他人とは見ているところが違う。だから、意図は分かりっこないよ。」と言って口を閉ざす。

監督就任直後の2004年、例年なら体の出来上がっていないキャンプ初日にいきなり紅白戦を行った。この狙いは本書で語られている。
二遊間コンビとしては最高との評価を得ていた、荒木と井端の守備位置を交換した。この理由も本書で語られている。
その他、一般のファンではなかなか知ることのできない監督時代の落合の行動や視点がいろいろと書かれていて面白かった。

熱血・気合でごまかす根性論を嫌う落合らしい助言の一つが、「心は技術で補える。心が弱いのは、技術が足りないからだ。」だ。
学生や社会人への助言なら、「自信が持てないのは、知識が足りないからだ。」とでもなるのだろう。

落合が最後に残した選手への言葉は、「おまえら自分のために野球をやれよ。」だった。

人は自分が理解できない物事(や人物)を恐れ遠ざけるものだから、理解できない落合を手本にしたいとは考えないだろう。
だが、選手としても監督としても成功している現実を突きつけられると、その理由を知り参考にしたいと思うだろう。
本書は、組織の枠からはみ出したリーダー像を描くというコンセプトのもと執筆されたらしい。
野球に詳しくない人達にも本書がよく読まれているのは、結果を出すために具体的に実践してきたことが語られているリーダー論だからなのでしょう。

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リーダー論はさておいて、単純に野球大好き人間としては、
落合とは実績もキャラクターも全く違うが、「理解できない」「常識破り」なことを平気で行う新庄が監督としてどんなチーム作りをするのか楽しみです。
落合に求められたのは"優勝"でしたが、新庄には"興行収入"が求められているでしょう。まずは今年、そして3年くらいは我慢して見たいですね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 野球
感想投稿日 : 2022年1月23日
読了日 : 2022年1月23日
本棚登録日 : 2021年10月31日

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