笑う執行人 女検事・秋月さやか

著者 :
  • KADOKAWA (2017年5月27日発売)
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本棚登録 : 39
感想 : 9
1

※長い長い文句です。
※序盤だけで想像できること以上のネタバレはありませんが、何しろ散々な言いようなので、本書を楽しもうとしている人・既に読み充分楽しめた人は、これより下を読まないほうがいいです。



読み始めてすぐから嫌な予感はしていたけれど、「途中でやめるモヤモヤ」と「最後まで読む苦痛」を秤にかけて、後者を選んだ。
その結果、読み終えて数日経ってもなお腹立たしい。
この本の文句だけで、三日三晩飲まず食わずで語れるくらい腹が立っている。
本を読んでこんなに気持ちになったのは久しぶりなので、文章の乱れも気にせず、思いつくまま勢いで書く。

まず、これはもう散々言われているけれど、タイトルと内容がマッチしない。
中盤からタイトルに疑問を抱き始め、最後には「はぁ?」となる。
『笑う執行人』はまあわからなくもないけど、『女検事・秋月さやか』は余計だろう。
だって秋月は全然活躍しないし、メインキャラにもなれていない。
それどころか、空気が読めず、勘が鈍く、検事としても女性としても大人としても危機管理能力が致命的に乏しく、窮地に陥ってもなお現実が見えないという、『中身がないのに自信だけはあるアホ女』に描かれている。
ホラー映画だったら真っ先に殺されてるキャラだ。
ジョーズに最初に喰われるキャラだ。
著者がそういう女性検事を描きたかったのなら大成功だ。
でもそれを読まされる身にもなって欲しい。

とりあえずタイトルにそれらしい女名前をつけておけば、『ストロベリーナイト』の姫川玲子や『アンフェア』の雪平夏見的な、個性的なキャラクターを期待した人たちが買う、売れる、と睨んだのだろうか。
タイトルやサブタイトルに登場人物の名前がついていたら、当然読者はその人の活躍か暗躍を期待する。
実際期待した。
だけどこの小説には、そういう読者の期待に応える工夫も努力も全くない。
本当に全然ない。
自ら進んで身の丈より高いハードルを置いたくせに、それを超えられなかった時にどれだけのツケが回ってくるのかは考えていなかったのだろうか。

それと、登場人物が多い小説は往々にして会話文が多くなりがちだけれども、この小説は、地の文でいけるところまで登場人物に喋らせてしまっている。
だからセリフが説明口調でクドいし、リアリティがない。
しかも、読者の誰もが分かっていることを、登場人物が、まるで復習するみたいに敢えて語るので、「いやいや、今さらそれ言わなくてもみんなわかってるし」感が半端ない。
そして、読者はツッコんでいるのに、小説の中ではその復習みたいな説明台詞を、なるほどなるほどーと頷きながら聞く人が登場するわけで、言ってる人も聞いてる人も、みんながみんなアホに見える。
主人公と思われる秋月もその周りの人も、登場機会が多ければ多いほどどんどんアホ度が増していくのだ。

ついでに言うと、喋りだけでなく、主要人物の行動にもリアリティがない。
たとえば、犯人にまんまと裏をかかれた警察が、悔しいそぶりを一切見せず、「まさかあんな手でくるとはねー」と、ニヤニヤヘラヘラしている。
もしそれが悔しさや歯痒さのカモフラージュだとしても、そういう心中を匂わせてくれるのが小説の素敵なところなのに、これにはそういうのが一切ないから、まんま、『ニヤニヤヘラヘラしている人』で終わる。
それ以上にもそれ以下にもならない。
警察官に限らず、失敗した後にヘラヘラするのは仕事が出来ない人の特徴じゃないだろうか。
こんな奴らに国民が守れると?日本の警察なめんな。

そうじゃなくてもこの小説は、心情の描写が極端に少ない。
登場人物はみんな、自分が考えていることを全部喋る、表も裏もない薄い人ばかりだ。
そんな組織は間違いなく、ただのヘッポコ集団だろ。


それから(まだまだ続きます)、これはあたしに限った不満かもしれないことを承知で書くけれど。
警察が追っている連続殺人事件と、検察が追っている政治家の不正献金事件とが並行して書かれているのだけれど、どちらも組織なので必然的に登場人物が多くなる。
なのに、たとえば警察側の事件には神田と神代、検察側の事件には山野と山室、というように、一文字違いの登場人物が出てくるせいで、中盤くらいまでは名前を見てもそれが誰なのかがピンとこない。
親切なことに、カバーの袖と本体冒頭に主な登場人物の簡単な紹介が載ってはいるが、一番見やすいカバー袖に載っているのは、上の4人のうち神代だけという不親切さ。
無数にある苗字の中から敢えて一文字違いの苗字を選び同じ場面で登場させるのだから、もしかしてこれは何かの伏線?と思い、「山野は検察の偉い人、山室は会社社長…」と頭の中で復唱しながら、伏線の回収も少し期待して慎重に読み進めたから、何の意味もないことに気づいた時は本を放り投げたくなった。
別に、セオリー通りじゃなくても、伏線がゼロの犯罪小説があっても全然いい。
ただし、「おもしろい」ことが大前提だ。

伏線で思い出したけれど、中盤で、ある人物が双子だとわかる場面がある。
それが、「一卵性双生児かとおもうほどよく似た二卵性双生児」という設定なのだけれど、これが伏線でもなんでもなく、読み終わってみれば、わざわざ二卵性の設定にする意味もないし、それどころか双子にする意味さえ薄い。
「よく似た兄弟(もしくは姉妹)」で充分だ。
人物設定にも伏線っぽいものをちょいちょい挟み込むくせに、そのどれもが伏線じゃないなんて、こんなつまらないことがあるか!

あと(まだ続きますよ)、とにかくいろいろ詰め込み過ぎ。
書き下ろすにあたっておおよその枚数は決まっていたのだろうけど、ページ数に対してエピソードの数が多すぎる。
だからどれもこれもが薄くなって、なんでもかんでも登場人物に喋らせる羽目になるってことを、どうして作り手の側の誰も気づかないんだ。
あたしなら、スナックの小芝居のシーン、まるっと削るぞ!

なにしろいろいろ詰め込まないといけないので、後半になればなるほど設定も文章もセリフも雑になるのだが、

“(前略)一瞬、さやかの目がばかになった。”(P.320)

という、もはや言葉を選ぶことを諦めたような表現を合図に、本来なら手に汗握るはずのシーンが劇画タッチに変貌する。
たとえば、ドラマの『MOZU』にありそうないい感じのロケーションで犯人と対峙する場面。
対決する人達はなぜか、身を躱しながら「オヒョウ」「アチャーッ」と叫び、攻撃するときは「アチャチャチャチャー」「キェェーッ」と叫ぶ。
北斗の拳かよ!北斗の拳のオマージュかよ!
不意打ちしたい場面で声を出してどうする!
っていうか、「キェェーッ」って言いながら飛び降りたら、着地と同時に舌噛むよ!危ないよ!

後半はストーリーだけでなく校正も雑で、P.259,P.261ではとうとう、最初の被害者『梁瀬』を『柳瀬』と誤植している。
登場人物の名前を間違えるって何。
梁瀬は在日韓国人三世で、本名が梁(リャン)だから通名が梁瀬なわけで、そもそも柳瀬に誤変換する意味がわからないし、それが修正されることなく出版されている事にただただ呆れる。
作品や登場人物に対する愛がないんだよ!



著者の小説を読んだのは初めてだけど、全部が全部こんな具合なんだろうか。
格闘シーンはいつも北斗の拳なのか。
そんな検証のためだけに他のを読んでみたい気もするけど、またこんな長いレビューを書く羽目になりそうだから、もう読まない。
絶対に、絶対に読まない。



※書いてみたけど全然スッキリしてません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2017年9月12日
読了日 : 2017年9月8日
本棚登録日 : 2017年9月5日

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