駈込み訴え

著者 :
  • 青空文庫 (1999年2月24日発売)
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感想 : 17
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この作品は、1940年に太宰が発表した口述筆記の作品である。物語は、一人の男が自らの師の横暴を訴えに来る場面から始まり、そこからずっとその男の語りによって話は進んでゆく。最後の場面では、この作品の主人公はユダであり、師とはキリストであることが明かされる。ユダは、世界的にも裏切りものの代名詞であり、銀30でキリストを裏切ったことから、金銭にがめつい嫌なやつだと思う人も少なくはないのではないか。キリストからの評価も、「生まれなかったほうが、その者のためによかった」と言われているなど、散々な評価である。(『マタイによる福音書』26章24節より)しかし、この作品はそうした従来の「嫌なやつ」とは異なり、「キリストを愛していたからこそ、キリストを憎悪し、裏切りを決意してもなお割り切れない悲しい人間」としてのユダを描いている。聖書内でもキリストではなく、ユダに着目したのは、既成の道徳観に反逆した無頼派の一人である太宰らしい。また、この他にもこの作品の注目すべき点は退廃的な美しさが溢れる真に迫った文章である。これにより、ユダのキリストへの愛憎が、より強調されている。「他人に殺されるくらいなら、いっそこの手であの人を殺したい」と言ってしまうほどの激情が、生々しくも儚く描写されている。また、太宰作品は、『走れメロス』しか読んだことないという人も多いのではないだろうか。この作品は、あの爽やかな文体とは正反対の雰囲気であり、太宰作品の新たな一面が見られるだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年1月24日
読了日 : 2020年1月24日
本棚登録日 : 2020年1月24日

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