スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

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本棚登録 : 9242
レビュー : 1059
著者 :
nejidonさん 小説   読み終わった 

上巻が多少ダレ気味だったが、下巻の半ば以降から一気に加速。
小さなエピソードも台詞もすべてが、実に鮮やかに回収されてラストへと向かう。
赤羽環の設定が何故こんなにえぐいのか。
スロウハウスに作家のチヨダコーキが住まうのは何故か。
何故登場人物たちの距離がこんなに近いのか。
今ではよく分かる。
これは、クリエイターたちの成長と再生の物語だ。
お互いがお互いから何かを受け取り、何かを与え、そして新しい階段を昇って行く。

物語が人生を支える。
そんなことを言うと陳腐に聞こえるが、誰の人生の中でも、一冊の本や一本の映画が、あるいはひとつの曲が、心の支えだった時があることだろう。
大人になっても忘れらない名作や名曲も、ひとつやふたつではない。
それは、間違いなくあなたの一部となり、成長を後押ししてくれたものだからだ。

『私は虚構と現実がごっちゃになったりはしていないし、自分の現実をきちんと捉えたその上で、チヨダブランドを読むのが何よりの幸せです。
(中略)読んでもいないのに、本を悪く言う人もいるだろうし、読んでも心に響かない人もいると思う。
だけど、私には響いたんです。
あの時期に、チヨダ先生の本を読んでいなければ、私は今、ここにいませんでした。』

・・その著作に影響されたという殺人事件から、作家チヨダ・コーキは筆を折る。
そこに届いたのがこの手紙だった。
『コーキの天使ちゃん』と呼ばれたこの手紙の主に秘かに会いに行き、そこでコーキが見たもの。
もうここから先は涙が滲んで読めなくなるほどだった。
『天使』どころではなかった。
手紙の主の、あまりに過酷な現在。
離ればなれで暮らす妹との、週一のわずかな逢瀬。ここは泣けた。たまらなく泣けた。
そしてコーキもまた、そこから再生していく。

『大人になるのを支える文学。・・・それで構わないんです。
 (中略)その時期を抜ければ、それに頼らないでも自分自身の恋や、家族や、人生の楽しみが見つかって生きていける。それまでの繋ぎの、現実逃避の文学だと言われても、それで構いません。自分の仕事に誇りを持っています』
そう言わしめるほどに。

良いことばかり書いている作品では決してないし、善人ばかりが登場するわけでもない。
でもその後味は、初夏の風に吹かれているように爽やかで心地よい。
もしかしたら、誰もが誰かから何かを受け取り、何かを与えているのかもしれない。
そう思うことが、私をつつましい気持ちにさせる。
創作に関わることを、どうか諦めないで欲しいという作者の願いが痛々しいほどに伝わってくる。
そしてこの作品もまた、誰かの心の支えになっていくことだろう。

レビュー投稿日
2019年10月1日
読了日
2019年10月1日
本棚登録日
2019年10月1日
15
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