重力ピエロ

3.82
  • (1699)
  • (1758)
  • (2223)
  • (203)
  • (39)
本棚登録 : 11856
レビュー : 1606
著者 :
nejidonさん 小説   読み終わった 

伊坂幸太郎が「家族愛」を描くとこうなる、という作品。
誰1人作中人物は泣いたりしないし、自分を不幸と思っている人間もいない。
相変わらず軽快なストーリー運びと機智にあふれる会話。
なのに、どうしても泣ける箇所がいくつもあるのです。
伊坂さんって、案外アツイ人なのかもしれませんね。
タイトルの「重力ピエロ」は、空中ブランコを飛ぶピエロが一瞬だけ重力を忘れることが出来るように、どんな困難なことであっても必ず乗り越えられるという信念のようなものの例え。
さて、主人公たちの「困難」とは何なのでしょう?
どんな風に乗り越えたのでしょう?それが読ませどころです。
話は「私」と言う一人称で語られます。

「私」には「春」という名の弟がいる。
春は、母親がレイプされた時に身ごもった子供。
そして兄の私は遺伝子技術を扱う会社で働いている。
ある日、その会社が何物かに放火され,春は町のあちこちに描かれた落書きと放火との関連性に気が付く。
落書き消しの仕事をしながら、犯人を追う春と私。
父親も参加する謎解きのなかで、関連性の秘密が明るみに出て来る。
それは自分の出生の忌まわしさを否定しなければ生きていけない春の、危うい心の彷徨でもあった…

この「春」というキャラクターの何と魅力的なこと。
これまで読んだどの小説にも、こういうキャラは存在しませんでした。
そして、兄「私」との仲には、読者でありながら嫉妬するほど。
何よりも二人の父親の存在は、作品中の言葉を借りれば「賞賛に
値します」。
春を産むことを決定し、待ち望み、歓迎した父。
自分を哀れむでもなく、ナルシストでもなく、穏やかに春を慈しんだ父。
終盤、何もかも春の仕業と分かっていて、なお手を差し伸べ握りしめて言います。
「お前は俺に似て嘘が下手だ」。
「遺伝子なんか何だ、血の繋がりが何だ」と、歓喜の声をあげたくなる感動の場面です。
春の取った行動には賛否両論あるでしょうが、あくまでも小説ですから、その結論を導くまでの過程を楽しめればいいかな。
罪と罰を扱う重いテーマでありながら、一貫して明るく前向きな筆致
は見事と言えます。

作品中に膨大な量の知識が詰め込まれていますが、場面展開も早
く、何より主役キャラの魅力で飽きずに読み進められます。
例によって、他の伊坂作品とリンクします。今回は「オーデュポンの
祈り」。順番に読んで来て良かった。

レビュー投稿日
2010年2月20日
読了日
2006年6月26日
本棚登録日
2006年6月26日
3
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『重力ピエロ』のレビューをもっとみる

『重力ピエロ』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。

いいね!してくれた人

ツイートする