戦地の図書館 (海を越えた一億四千万冊)

  • 東京創元社 (2016年5月29日発売)
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感想 : 61

久々に読み応えのあるノンフィクションだった。
ただ、この本にはふたつのまるで違う見方が生じる。

ひとつ目は、アメリカの優れた面に対する称賛。
「戦時図書審議会」という兵隊文庫を製作し、それを戦場に供給する組織を設立して予算を与え、兵士たちの熱い要望に応えただけでなく、戦後とられた優遇措置のおかげで、除隊後も多数が大学に入学してアメリカ社会の高学歴化という結果を生んだということ。
(兵士というのは、ヨーロッパ戦線と太平洋戦線の米兵のこと)

ふたつ目は、これもまたプロパガンダであるという点。
本書はナチス・ドイツが行った「焚書」から始まり、連合国側の人々の士気をくじき、戦意を喪失させるために思想戦をしかけたと激しく非難している。
アメリカはそれに対抗し、「本は武器である」という考えの元、戦線に図書を贈る運動を展開していったという。
だが、私はすでにこの段階でつまずいてしまう。
アメリカは、占領期にもっとひどいことを日本にしたではないか。
「自由」「平等」「正義」という表現が本の中に登場するたびに、激しい違和感を覚えた。

また、こうも言う。
人種差別はしない私たちだから、収容所にいる日系人にも図書を送ったとも。
アメリカ国籍を持つ12万人以上にものぼる日系アメリカ人が、エネミー・エイリアンとして全米10か所の強制収容所に送り込まれたという事実はどうするのか。
それまで汗水流して蓄えた財産をすべて没収され、身の回りの物だけ持つことを許されて、有刺鉄線を張り巡らされた馬小屋や豚小屋に閉じ込められたのだ。
「自由・平等・正義」は、ホワイトアメリカンだけのものなのか。
そもそも読書嫌いで有名だったルーズヴェルト大統領は、「皆さんの子どもを決して戦場に送りだしたりしない」という嘘を公言して大統領に当選していた。
日本のみでなく、自国民さえ欺いていた。
前提としてそれを考えると、「戦時図書審議会」を支援し、兵士たちの戦後補償をどれほど手厚くしても、単なる埋め合わせとしてしか捉えられない。

別に反米を唱えているわけではない。
情けないのは、戦争に関することを発言するとイデオロギーの問題になってしまうこと。
事実を、正しく理解しておきたい。それだけだ。

敗戦国だから話題にもならないのだろうが、日本にも兵隊文庫が存在した。
江戸川乱歩などが読まれていたらしい。
兵士の間で劇団も作られ、実話をもとにした『南の島に雪が降る』という映画まであった。

だが、生死をかけた戦線でペーパーバックが兵士たちに生き抜く勇気を与えたことを思うとやはり感動する。
何より、本を読むことでどんなに感動したかを伝える兵士たちの手紙が多数本書の中で公開され、その率直な文章が更に感動を呼ぶ。
心わずらうことなく、重いハードカバーの本を自宅で静かに読める日々が続きますように。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年6月1日
読了日 : -
本棚登録日 : 2017年6月1日

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コメント 3件

杜のうさこさんのコメント
2017/06/13

nejidonさん、こんばんは~♪

お久しぶりです。コメントありがとうございます!
もう嬉しくて~♪
諸事情でバタバタしていて、やっとお邪魔できました。
私たち、たぶん同じ時間帯に訪問し合ってましたね。ふふ、なんか嬉しいです。

その後お身体の調子はいかがですか?
お互い無理しないように、のんびりとですね。
(そう言いながら、つい調子にのってしまい後悔するんですが…)

この本、すごく読みたいと思ってたんですよ。
nejidonさんのこのレビュー、男前な感じがして(失礼・笑)とても感動しました。
私はこういう類の本を読むと、どうしても感傷的になってしまって…
そうなんですよね。思想的なものではなく、真実を知りたいだけなんです。
それを伝えることの難しさを改めて感じます。

ロバくんとブタさん、スズメちゃんにだんごむしくん、読みたい本がまた増えて、困ってしまいます(*^-^*)。
特に「侘び寂び」の解釈【生と死の自然のサイクルを受け入れ、不完全さの中にある美を見出すこと】
これツボです。はい。
そんな気になって来ました(笑)。

私の本棚の方にもお返事しておきますので、お時間のある時にまた読んで下さいね(*^-^*)。

杜のうさこさんのコメント
2017/06/17

nejidonさん、こんばんニャ♪

河添恵子さんの『国防女子が行く』ですね。
早速メモしました。探して読んでみようと思います。
ご紹介ありがとうございます。

それと、私も長年持病持ちです。
もう、これでもかというくらい(笑)。
お薬とは縁の切れない人生ですが、何とか折り合いをつけて生きています(*^-^*)

>本を読む楽しみがあって、救われています。
同じく。
その後のにゃんこも「同じく」と言いたいところなんですが、
これはもう残念ながら…(>_<)。

この前書き忘れたんですが、アイコンの猫ちゃん、変わりましたね。
オッドちゃんかな?美猫ちゃんですね。
私、まだオッドちゃんに出会えたことがないんですよ~。

杜のうさこさんのコメント
2017/06/21

nejidonさん、つらいお話をさせてしまい本当にごめんなさい…
ゆっくりと歩んでくれているとお聞きしていたので、まさかそんなこととは…
私は勝手に「みかんちゃん」と呼ばせてもらっていました。
どれほどおつらいことか…

二十歳のお誕生日目前…
うちの子たちも生きていてくれれば同じ歳でした。
3兄弟妹で14、15、16歳と立て続けに…
同じくのらちゃんだったので、誕生日もとりあえずこどもの日でした。
子どもがいない夫婦で、溺愛してしまって…
その悲しみと喪失感、それはさまざまな後悔も伴って…
そのつらさは口では言い表せないくらいです。
大げさなようなんですが、持病のせいもあって、今生きているのが不思議なくらい(苦笑)
nejidonさんもご存知だと思いますが、虹の橋の詩のネコちゃんバージョン、それを固く信じて頑張っています(*^-^*)。
もしかしたら、虹の橋の草原でうちの子たちと遊んでいるかもしれませんね。

持病があると、季節に左右されることあります。
私も完治はないので、寛解の期間が少しでも長ければいいなぁと。
こんな私が言うのもなんですが、くれぐれもお身体を大切になさってくださいね。

素直で無邪気な甘えん坊の「オッドなましろちゃん」(また勝手に呼び名をつけて~笑)
飼い主に似るといいますからね(*^-^*)

なんかとりとめのないことを長々とごめんなさい。
これに懲りずにまた仲良くさせて下さいね。
それと本棚が探しにくいなんて、まったく無かったですよ~。

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