久々に読み応えのあるノンフィクションだった。
ただ、この本にはふたつのまるで違う見方が生じる。
ひとつ目は、アメリカの優れた面に対する称賛。
「戦時図書審議会」という兵隊文庫を製作し、それを戦場に供給する組織を設立して予算を与え、兵士たちの熱い要望に応えただけでなく、戦後とられた優遇措置のおかげで、除隊後も多数が大学に入学してアメリカ社会の高学歴化という結果を生んだということ。
(兵士というのは、ヨーロッパ戦線と太平洋戦線の米兵のこと)
ふたつ目は、これもまたプロパガンダであるという点。
本書はナチス・ドイツが行った「焚書」から始まり、連合国側の人々の士気をくじき、戦意を喪失させるために思想戦をしかけたと激しく非難している。
アメリカはそれに対抗し、「本は武器である」という考えの元、戦線に図書を贈る運動を展開していったという。
だが、私はすでにこの段階でつまずいてしまう。
アメリカは、占領期にもっとひどいことを日本にしたではないか。
「自由」「平等」「正義」という表現が本の中に登場するたびに、激しい違和感を覚えた。
また、こうも言う。
人種差別はしない私たちだから、収容所にいる日系人にも図書を送ったとも。
アメリカ国籍を持つ12万人以上にものぼる日系アメリカ人が、エネミー・エイリアンとして全米10か所の強制収容所に送り込まれたという事実はどうするのか。
それまで汗水流して蓄えた財産をすべて没収され、身の回りの物だけ持つことを許されて、有刺鉄線を張り巡らされた馬小屋や豚小屋に閉じ込められたのだ。
「自由・平等・正義」は、ホワイトアメリカンだけのものなのか。
そもそも読書嫌いで有名だったルーズヴェルト大統領は、「皆さんの子どもを決して戦場に送りだしたりしない」という嘘を公言して大統領に当選していた。
日本のみでなく、自国民さえ欺いていた。
前提としてそれを考えると、「戦時図書審議会」を支援し、兵士たちの戦後補償をどれほど手厚くしても、単なる埋め合わせとしてしか捉えられない。
別に反米を唱えているわけではない。
情けないのは、戦争に関することを発言するとイデオロギーの問題になってしまうこと。
事実を、正しく理解しておきたい。それだけだ。
敗戦国だから話題にもならないのだろうが、日本にも兵隊文庫が存在した。
江戸川乱歩などが読まれていたらしい。
兵士の間で劇団も作られ、実話をもとにした『南の島に雪が降る』という映画まであった。
だが、生死をかけた戦線でペーパーバックが兵士たちに生き抜く勇気を与えたことを思うとやはり感動する。
何より、本を読むことでどんなに感動したかを伝える兵士たちの手紙が多数本書の中で公開され、その率直な文章が更に感動を呼ぶ。
心わずらうことなく、重いハードカバーの本を自宅で静かに読める日々が続きますように。
- 感想投稿日 : 2017年6月1日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2017年6月1日
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