子どもに語るモンゴルの昔話

  • こぐま社 (2004年11月1日発売)
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本棚登録 : 73
感想 : 5
5

この本棚でも載せた「石になった狩人」と「スーホの白い馬」を含めて全15話。
どちらも主人公の名前も違うし、話ももう少し入り組んでいる。
「スーホの白い馬」は「草原の白い馬」というタイトルで、日本の「三枚のお札」のような要素もあり、手に汗握る展開だ。
絵本と違う点がまだあって、馬頭琴を作るのは白い馬の尻尾の毛。
うん、こちらの方が日本の子どもたちには受け入れやすいだろう。

狩りと牧畜の国で、財産は「馬」「牛」「らくだ」「山羊」「羊」などの家畜。
一年中連れて移動し、太らせてはそのミルクや肉を食料とし、毛や皮で衣服や生活用具を作って暮らしてきた。
住居はというと、移動に便利な「ゲル」と言う組み立ても解体も簡単な家。
今でこそモンゴルは電話もPCもあり飛行機も飛ぶが、この本の中では舞台は昔のまま。
日本とはこれほど違うのに、メンタル面で共通するものが多いのか、どのお話も面白い。
残酷なものはひとつもなく、みんな勇壮でどこか物悲しかったりするのだ。
笑い話もあるが、愚かぶりを嘲笑する姿勢はなく、そういうこともあるだろうなぁと、共感を招くのだ。
以前読んだイスラエルの昔話と大きく異なるのは、人というものを信じている点、かな。
あちらは、神様以外は何も信じていなくて、信仰とはそういうものと思いつつも、その高みには登れなかった。
いや、登りたくなかったと言うべきか。

驚いたことが一つ。
昨年見た【らくだの涙】という映画があり、その中で忘れられない名場面があるのだが、あとがきにそれに関する記述があったのだ。
家畜とひととの結びつきがとても深いモンゴルの人々の、暮らしから生まれた知恵なのだが、人間界で言うところの「ネグレスト」がたまにあるらしいのだ。
子家畜が死んでしまうというのは財産を失うに等しいので、子どもを母親の傍に連れて行って、優しく声掛けをするらしい。長いときは一日掛けて続けるという。
映画の中では、馬頭琴の名人を呼んで、一家の母親がそれにあわせて歌を歌っていた。
すると、母らくだの目から涙が溢れ出して、子に乳を与えだしたのだ。胸が、思わずじーんとする場面だった。
これが、通常に行われている、育児放棄された子家畜への救出方であるという。
なんて素晴らしい知恵。なんて素晴らしい根気と愛情。
人間のネグレストにも、通用すると良いなぁ。。

あたたかい気持ちになれるモンゴルの昔話。お時間のある時にどうぞ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 民話・昔話
感想投稿日 : 2014年5月30日
読了日 : 2014年5月10日
本棚登録日 : 2014年5月15日

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コメント 2件

だいさんのコメント
2014/06/01

>人間のネグレストにも、通用すると良いなぁ。。

同感!!
やっぱり、愛が大切ですよね。

nejidonさんのコメント
2014/06/04

だいさん、こちらにもコメントをいただいてありがとうございます!
このレビューを載せた後からも、ネグレストによる事件がありましたね・・
親はわが身を削ってでも我が子に食べさせるものだと思いたいし、またそうであるはず。
でも現実には、事件はあとをたちません。
そう、やっぱり「愛」しか救える手立てはないのだと思います。
人間はラクダほど素直でないので、難しいのかもしれませんね。悲しいことです。

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