飛ぶ教室 (岩波少年文庫)

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制作 : ヴァルター・トリアー  Erich K¨astner  池田 香代子 
newtongakuinさん 国語   読み終わった 

ヒトラーのナチスが政権を握りファシズムの脅威がドイツを覆い始めた1933年、ドイツ人の手によって美しい小説が生まれました。寄宿学校を舞台にした少年たちの物語『飛ぶ教室』です。
『飛ぶ教室』という不思議なタイトルの意味は読めばすぐに分かりますから、ここでは触れないことにします。
親元を離れた子どもたちが寄宿学校で繰り広げる様々なエピソードはとても魅力的です。(ヨーロッパの人がどれだけクリスマスを大切にし楽しみにしているかがよくわかります。)それに、登場する大人たちがまた魅力的であるのです。「正義さん」と呼ばれている寄宿舎の舎監であるヨーハン・ベク先生、そして市民農園の自分の区画に二等の禁煙車両を置きずっと住んでいるので「禁煙さん」と呼ばれているローベルト・ウートホフトさん。子どもたちはこの大人たちを深く深く愛しています。子どもたちにとって信頼でき頼りになる大人や教師がいることはどれだけ幸福なことなのかをしみじみと感じることができます。
「良い子」になることが子どものつとめではありませんし、「良い子」にしつけることが良い大人の条件でもないでしょう。人間形成にもっとも大切な幼少時代にこどもから大人への橋渡しを担ってくれる良い教師に恵まれた人間が幸福なのです。しかしだからといって今の「荒れている」といわれる教育現場の子どもたちが不幸だというつもりはありません。ただ、すばらしい教師は、突然目の前に現れるのではないということだけは確かです。子どもたちの側に先生たちの魅力に気づく素地がなければならないでしょう。実にそうした素地を準備しきたえてくれるもの、それが文学ではないかと私は信じます。
ケストナーの『飛ぶ教室』を読み、子どもは「貧しさ」や「勇気」や「悩むこと」について考えるでしょう。そうならざるを得ません! そして大人は少年時代の目線から今の自分をとらえ返し、「妥協していたもの」や「不寛容になっていた心」のことを考え恥ずかしくなるでしょう。そうならざるを得ません! 
大人こそ読み返すべき小説であるように思います。
さて、ケストナーはファシズムを批判していたのでナチス政権によって詩や小説の執筆を禁止され、著作の多くが焚書の対象になります。くやしかったでありましょう。憤慨したでありましょう。彼は小説の中である教師にこんな台詞を与えています。「平和を乱すことがなされたら、それをしたものだけでなく、止めなかったものにも責任はある」
あるいは次のような言葉も出てきます。「世界の歴史には、かしこくない人々が勇気をもち、かしこい人々が臆病だった時代がいくらもあった。これは正しいことではなかった」
時代背景を考えるとき、これらの言葉が大きな意味をもって立ち上がってきます。一読をお勧めします。

レビュー投稿日
2013年3月25日
読了日
-
本棚登録日
2013年3月25日
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