ぼくのマンガ人生 (岩波新書)

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著者 : 手塚治虫
newtongakuinさん 美術   読み終わった 

 手塚治虫が亡くなった日のことを今でもよく覚えています。
 その日は群馬県の温泉地で合宿をしていたのでした。昼間の白熱した議論を終えて、食堂で夕食を食べていたとき、周囲のただならぬ雰囲気に気付きました。同宿の別のグループの一角から女性の悲鳴のような叫び声が聞こえたかと思うと、突然食堂がざわめきだし、いくつもの鳴き声が波紋のように広がり始めたのです。彼らの視線の先を見て、全てがわかりました。それはマンガ家手塚治虫の悲報を伝えるNHKのニュースだったのです。
 その日、何を食べたのか全く覚えていません。同宿の一団の涙はこちら側にも伝播し、夕食は悲しみに包まれたのでした。すぐ後でわかったことですが、この一団は都内某私立大学の漫画研究部の一行だったようで、それで、悲しみの大きさの意味も知れたのですが、もちろん漫研メンバーにあらずとも、早すぎる巨人の死を悼む気持ちにかわりはありませんでした。朝日ジャーナルに連載されていた「ネオファウスト」が作家の病気を理由に休載されたときから覚悟はしていました。
戦後の昭和史を駆けるようにマンガを描き続けた手塚治虫は、平成元年2月9日に亡くなりました。まさに昭和を生き、昭和とともに逝ってしまったのです。私たちは彼の残した膨大な仕事を前にして、その量に驚き、次に高度に維持された質に驚きます。マンガだけではありませんでした。彼の書く文章はとても素晴らしく、また彼は話の名手でもありました。彼の声は耳に穏やかで心地よく、説得力がありました。それはもちろん話術といったものではなく、彼の根っこからにじみ出る人間性のなせる業だったのでしょう。今でも彼の本を読むとき彼の声が聞こえます。
ここに紹介する『ぼくのマンガ人生は手塚治虫が子どもたちに向けて行った講演を編集して書かれたものです。「生命の尊厳」がぼくのテーマ、と自らの作品群について語る言葉はとても歯切れがよく力強い。そしてあたたかい。ですからなおさら胸に響きます。

レビュー投稿日
2013年3月25日
読了日
-
本棚登録日
2013年3月25日
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