兄たち

  • 青空文庫 (1999年11月10日発売)
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5

『父がなくなったときは、長兄は大学を出たばかりの二十五歳、次兄は二十三歳、三男は二十歳、私が十四歳でありました。兄たちは、みんな優しく、そうして大人びていましたので、私は、父に死なれても、少しも心細く感じませんでした。長兄を、父と全く同じことに思い、次兄を苦労した伯父さんの様に思い、甘えてばかりいました。私が、どんなひねこびた我儘わがままいっても、兄たちは、いつも笑って許してくれました。』

そんな冒頭から始まる私小説。

太宰は七⼈いる男兄弟の六男。
太宰の上には本当は五⼈の兄がいたが⻑男と次男が早世したため、三男の兄・⽂治が実質上の⻑兄となり、津島家の家督を継いで家⻑となった。

『兄たち』では、長兄・次兄・特に三男との思い出を綴っている。

長兄は25歳で町長に、31歳で県会議員になり、その後衆議院議員として活躍した津島文治。イヤイヤながら政治に精を出す傍ら、家では戯曲を書き弟妹たちに聞かせてくれることがあったそう。そんな長兄の顔は、しんから嬉しそうに見えたらしい。

次兄は長兄と力を合わせて津島家の維持発展に尽力する傍ら、谷崎潤一郎の初期からの愛読者であった。

そして三男。その性格はまじめで厳格で律儀なものをどこかに隠し持っていたけれど、太宰に見せるのは『粋紳士風(プレッシュウ)または鬼面毒笑風(ビュルレスク)』。要はいつもカッコつけたり、ふざけたりしていたとのこと。

・長兄と次兄がビールを飲んでいても、その輪に加わらず一人ワインを嗜み、颯爽と飯を食って去っていく。
・長兄と次兄の書いた文章を読んで『ひどいね』と毒笑し、自分は詩を書いただけ。
・その詩を歌いながら踊っていたらしい。
・太宰は、今となってはそれは駄文だと思っているが、当時は傑作だと思っていた。

・「あれ菊池寛やで」「川端康成に短編集もらった」など太宰を騙す(神秘捏造の悪癖)
→太宰が有名になってしまい、のちに嘘とばれる

後半、三男は結核を患いながらも、ふざけ続ける。
そして最期の時『兄は、はっきりした言葉で、ダイヤのネクタイピンとプラチナの鎖があるから、おまえにあげるよ』

塑像をしていたものの何一つ作品を残さず、美形なのに全くモテず、最期の瞬間までふざけ続けた三男が太宰に、太宰の文学に与えた影響は大きいなと感じました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年2月22日
読了日 : 2024年2月22日
本棚登録日 : 2024年2月22日

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